928村田武著『ドイツ農業と「エネルギー転換」――バイオガス発電と家族農業経営――』

書誌情報:筑波書房ブックレット(暮らしのなかの食と農56),78頁,本体価格750円,2013年10月7日発行

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このブックレットも,先日の講演会(「ドイツのエネルギー転換と再生可能エネルギーで村おこし」講演会→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20140315/1394886695)の折に買い求めた。
地産地消は食にかかわるだけではない。ドイツでは原子力に依存しない地産地消型の自然エネルギーをもとにした新しい地域経済活性化策が活発だ。本書で紹介されているバイエルン州のマシーネリンクやバイオガス発電は個々の農家や協同組合によって取り組まれている。旧西ドイツ時代のマンスホルト・プランは大規模穀作経営を目指してもので南ドイツで典型的な草地酪農にみられる中小零細経営は蚊帳の外に置かれた。そこで打ち出されたのがバイエルン方式ともいうべき少数の規模拡大をめざす経営だけが生き残れるような政策であった。マシーネリンクという農業機械利用の経営間相互援助であり,この組織がバイオマス・エネルギー生産事業に参入することでエネルギー転換に結びつけることになった。個々の農家がバイオバス発電施設を導入するのではなく,マシーネリンクが仲介する複数経営の協業事業である。
再生可能エネルギー法の固定価格買取制度が安定した収益をもたらすことになると,大手電力会社や地域外の企業が太陽光発電(メガソーラー)や風力発電施設,バイオマス発電施設などに注目する。農村地域がエネルギー源として脚光を浴びるようになる。これに加えてバイオマス・エネルギー生産に不可欠なデントコーン栽培の需要急増もあって,住民出資の再生可能エネルギー協同組合を立ち上げることになる。ドイツで新しく立ち上がっている協同組合の半分はこの農村での再生可能エネルギー協同組合だという。
バイオガス発電に代表される再生可能エネルギー生産が農家所得を補完し(農外所得では林業所得と再生可能エネルギー生産とでおおよそ80%を占める),ドイツの家族農業経営に新しい経営展開の可能性をもたらしている。
理念や思想としての脱原発から大地に根ざした脱原発へ。薄いブックレットが報告するドイツ農業と再生可能エネルギーの実践は分厚い一書に負けていない。