818大島堅一著『原発のコスト――エネルギー転換への視点――』

書誌情報:岩波新書(1342),vii+221頁,本体価格760円,2011年12月20日発行

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昨夜は「爆笑問題の福島入門」(→http://www.nhk.or.jp/bakumon/prevtime/20130318.html)を見た。今日になって,昨夜福島第一原発で1,3,4号機の使用済み核燃料プールと共同プールの冷却システムが停電したことを知る。事故処理それ自体が現在進行中であり,原子力の「平和」利用の現実をあらためて思い知らされた。事故の重大さとコスト,収束までの時間を考えると脱原発しか道はないとつくづく思う。
福島第一原発事故が起こった年に刊行された本書は,事故・環境汚染の過酷さと被害補償を概説し,「安価神話」と「安全神話」を解きほぐす。そのうえで脱原発再生可能エネルギー普及の道を拓く。原子力損害賠償支援機構法が運用によっては電気事業のあり方を根本から変えうる可能性と同時に費用負担責任を東電だけでなく原子力事業者全体に課していない限界をもっているとの指摘や社会的費用論を援用した原発=高価論は説得的である。
安全神話」解体論は,シビアアクシデントの可能性はきわめて低いとして安全対策を電力会社の自主性にまかせてきたところにあると断じている。「福島第一原発事故は,原子力安全委員会自身の職務放棄がもたらした人災である」(143ページ)。原発再稼働にむけてのストレステストも「安全神話を新たな形で復活させること」(148ページ)につながる。必要なことは「多重防護の基本的な考え方に立ち返り,立地点の選定と防災対策を含み,多重防護のすべての段階を評価し直すこと」(同上)である。
電力9社,日本原子力発電電事連,プラントメーカー,ゼネコン中心の原子力産業協会会員企業,電力関連労組,中央官庁(経産省資源エネルギー庁保安院文科省など),「一部の」政治家,「一部の」各種メディア,「一部の」学者・研究者からなる「原子力複合体」――「原子力村」と呼ぶには強力な政治的・経済的力をもっていることから著者による命名――が「安全神話」を作り出してきた。「日本においては,原子力複合体の力があまりに強すぎる。原子力安全規制だけではなく,原子力開発にかかわる機関においても,人的切り離しを行い,行政の公正性と中立性を確立しなければならない」(170ページ)。
脱原発にかかるコストよりも,原子力発電に依存するコストのほうが大きい」(199ページ)とすれば,ドイツのように「脱原発は理念ではなく,現実の政策」(190ページ)で可能なのだ。原子力技術と原子力政策への批判的立場を明確にしながら,国民の意思による脱原発の可能性まで論じた好著である。