454友野伸一郎著『対決! 大学の教育力』

書誌情報:朝日新書(225),245頁,本体価格740円,2010年3月30日発行

対決! 大学の教育力 (朝日新書)

対決! 大学の教育力 (朝日新書)

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大学選びの基準にブランド力と偏差値が挙げられることが多い。河合塾のアンケート調査でも「大学の知名度」,「入試難易度」,「設置学部・学科・専攻」が最上位だ(17ページ)。そうした常識を認めつつ,「悔いのない大学選びには,教養教育や初年次教育に対する取り組みの視点も含めて考えることが大切」(241ページ)との問題関心からまとめたのが本書である。元になっているのは,河合塾の調査「国立大学教養・共通教育調査」(2006年〜2008年)と「初年次教育調査」(2009年)であり,訪問調査もふまえて丹念に比較検討している。
大学における教育に関心が寄せられるようになったのはごく最近のように思う。読売新聞がデータを集め,分析し,公表しはじめてからではないか。朝日新聞では例のランキングがあるが,かならずしも教育の中味に言及していない。
さて,教養教育についての評価のポイントは,履修指定,初年次ゼミの必修,学際的科目の必修である。教養教育のランキングでポイントの高い8ケースに分け,室蘭工業大学広島大学福井大学東北大学九州大学東京海洋大学山口大学国際教養大学が紹介されている。東京大学京都大学,慶応大学SFC早稲田大学国際教養学部は国立・私立の代表として取り上げられている。なお,教養教育を全学体制で取り組むというのは国立大学の特徴になっている関係からここの分析は早慶以外はすべて国立大学が対象となっている。国立大学には「元々,すべての大学で教養部が置かれていた」(46ページ)というのは事実ではない。EE大学(師範学校と高商を母体)には教養部はなかった。また,2009年度には国立86,公立69,私立589,合計744大学とあるが(47ページ),国立86,公立92,私立595,計773大学が正しい数字だ。
初年次教育については,能動的な学び,学生の自律・自立化,すべての入学生対象をポイントにしてアンケート調査と32大学35学部のヒヤリングによって,特徴的な取り組みをしている,岩手県立大学ソフトウェア情報学部,同志社大学法学部法律学科,神戸学院大学薬学部,高知大学農学部嘉悦大学三重大学金沢工業大学関西国際大学が紹介されている。初年次教育に関してGPによる取り組みは多くある。「その多くが一部の学生を対象にした「選択」の取り組み」(158ページ)との視点はあたっている。総じて多くのGPが獲得するための手段に化していることへの警鐘と読むべきだろう。
教養教育への教員の消極的姿勢についての批判的見解が随所にある。「教養教育や初年次教育は学士課程教育の重要な一部を構成する」(236ページ)とする指摘,また,大学における教育によって学生が変わりうることへの展望は評者も同じ思いをもっている。