229橘木俊詔著『早稲田と慶応――名門私大の栄光と影――』

書誌情報:講談社現代新書(1958),237頁,本体価格720円,2008年9月20日発行

早稲田と慶応 名門私大の栄光と影 (講談社現代新書)

早稲田と慶応 名門私大の栄光と影 (講談社現代新書)

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日本の名門私大,早稲田と慶応を,建学精神・校風,学費,入試制度などから比較検討し,両校の図抜けた実力をまとめ,日本の大学の生き残り策を提言している。
早慶とも歴史があり,時には廃校の危機もあった。著者は,両校の努力を認めたうえで,家計所得の水準上昇と教育制度の変革が両校の押し上げを促したとみている。前者に関わるのが,国立・私立間の授業料格差の縮小政策である。私立大学への私学助成金が学費依存体質を一定改善し,国立大学学費の値上げによって国立・私立間の学費差を縮めてきた。私立の学費は高いが以前に比べれば国公私立は大学としては無差別になってきた。
後者に関わるのが,1979年の共通一次試験の導入と国立一期・二期校制度の廃止である。共通一次試験は難問・奇問を防ぎ受験戦争を緩和するとして導入された。他方で,偏差値という名で大学の序列化を招く。建学精神や校風という個性を生かすことのできた私立大学なかでも早慶はこのメリットを最大限享受しえた。また,一期校・二期校制度の廃止は旧一期校から二期校へという流れを私立へと変えることに結果した。
著者は,各界で活躍する卒業生の具体例や数字をあげて,早慶両校の成功物語を描く。そうした栄光とともに,早稲田を拡大路線,慶応を階層固定,それぞれの象徴とみ,さらに両校を学問研究の貢献では発展途上として批判的に分析する。大学教育の今後については,学問研究は一部の大学と一部の人に任せ,大部分の大学は就職に役立つ技能を徹底して教えろ,と主張している。著者は一切触れていないが,これは,中教審中間報告「我が国の高等教育の将来像」(2005年)で,大学は機能別分化(①世界的研究・教育拠点②高度専門職業人教育③幅広い職業人養成④総合的教養教育⑤特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究⑥地域の生涯学習機会の拠点⑦社会貢献機能(地域貢献,産官学連携,国際交流等))すべしとまるで同じである。中教審の「将来像」が具体的例示してあるだけましというべきだろう。
著者が早慶人気を志願者の動向で分析している箇所で,「慶応は入学者数を公表していない」(25ページ)と指摘するだけでその意味を全く問題にしていない。これについてはエントリーを別にして考えてみたい。