1085武田晴人著『脱・成長神話――歴史から見た日本経済のゆくえ――』

書誌情報:朝日新書(491),218頁,本体価格760円,2014年12月30日発行

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福島原発事故が起こるまで安全神話と安い神話が蔓延っていた。この神話の解体とともにエネルギー戦略と成長神話の見直しこそ必要な手立てだったはずだった。表向き原発依存を「是正」しつつ成長戦略を推進する政策が大手を振っている現状からは,成長戦略そのものの是非を論じざるをえない。著者の思いに評者も共振する。
資源制約,財政破綻,高齢化,少子化という課題を正面にすえ,経済成長の呪縛を解き,「ゼロ成長」から経済社会を考えていた。高成長は「一つの歴史的で一時的な現象」(190ページ)である。経済成長の指標で未来社会を見るべきではない。著者の主張は陰鬱な未来を描いていない。
「環境や資源の制約,これから満たされなければならない社会的なニーズの質,それを満たすための供給の仕組みなどの目前にある解決すべき問題」(211ページ)と向き合い,成長神話から自由になれ。経済史家の「ゼロ成長」論は攻めの経済論だった。