838服部茂幸著『新自由主義の帰結――なぜ世界経済は停滞するのか――』

書誌情報:岩波新書(1425),ix+194頁,本体価格720円,2013年5月21日発行

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新自由主義にもとづく経済政策とその実験場であるはずのアメリカ経済の実態のズレを指摘しながら,新自由主義がはたしてきた意味を根底から問い直している。スーパーリッチに富を集中させ,大衆の貧困と格差,カジノ資本主義金融危機を招いた新自由主義をとことん批判している。マルクス派をのぞけばせいぜい新自由主義の部分的批判に終始してきた経済論壇への手厳しい批判でもある。グリーンスパンバーナンキがミスを繰り返し間違った金融政策を主導してきた舌鋒は本書の主旋律になっている。
戦後資本主義レジーム批判の論点(総需要管理政策,金融規制,福祉国家,市場への介入)が,新自由主義の政策転換(供給サイド重視,金融自由化,トリクル・ダウン,自由市場)の要をなすが,アメリカの実際の経済政策では,バブルによる総需要創出,バブルと金融危機,金融介入であったとする見方はおおむね評者も同意する。
新自由主義の仮面をつけながらグローバル・ケインズ主義政策の矛盾から,「バブルと投機に警鐘を鳴らすガルブレイスのような経済学」(104ページ)やポスト・ケインズ派への期待を述べ,ニューディールや減税から支出拡大路線への転換に新自由主義克服の未来を構想する。
アメリカの失敗,新自由主義経済学の失敗」(181ページ)は緩和,かんわ,カンワとにぎやかなアベノミクスにも無縁ではない。