186奈倉哲三編著『絵解き 幕末風刺画と天皇』

書誌情報:柏書房,264頁,本体価格6,500円,2007年12月25日発行

絵解き 幕末諷刺画と天皇

絵解き 幕末諷刺画と天皇

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戊辰戦争時,薩長嫌いの江戸っ子が錦絵にコードを織り込んで巧みに諷刺した。諷刺画の嚆矢は天保年間の歌川国芳源頼光公館土蜘作妖怪図」だった。出版統制という検閲が錦絵にもおよび,また歌舞伎の浅草猿若町への強制移転や庶民生活への制限などが諷刺錦絵の登場の背景だ。江戸庶民の政治関心の所在がうかがえる。
戊辰戦争諷刺錦絵40点(編著者は144点を確認している)から,まずは埋め込まれたコードを解読する。家紋,行列纏(まとい),船印などは武鑑からだが,当時の江戸庶民なら知っていたと思われる歌舞伎のなかの台詞,常磐津,都々逸,俗謡などの解読には苦労したという。
ススキは天璋院,金魚は天皇,梯子は徳川慶喜,撫子は和宮,蜘蛛の巣は有栖川宮,鰹節は土佐藩,蝶は長州藩,蝋燭は会津藩,蛤は桑名藩,将棋の駒は天童藩,雀は仙台藩,米俵は米沢藩,大根は尾張藩だ。40点には人物や詞書の不明があるという。庶民の反権力,庶民と研究者の知恵比べがなんとも爽快だ。