069関口すみ子著『大江戸の姫さま――ペットからお輿入れまで――』

書誌情報:角川選書381,188頁,本体価格1,400円,2005年8月31日

大江戸の姫さま (角川選書)

大江戸の姫さま (角川選書)

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『御一新とジェンダー――荻生徂徠から教育勅語まで――』(2005年)→本書(2005年)→『国民道徳とジェンダー――福沢諭吉井上哲次郎和辻哲郎――』(2007年)の順で著者の連作を読むべきなのかもしれない。大名妻子の江戸在府制が確立(1634年)して以降からその廃止(1862年)いたる228年間(=大江戸)の姫さまのお楽しみとお輿入れを描き,その意味するところを解読しようというのが本書である。お楽しみのペットや歌舞伎はむしろ本書では添え物にすぎず,「徳川家を頂点とした大名家のネットワーク」「禁裏や公家をまきこんだ複雑なネットワーク」(69ページ)に翻弄される姫の日常の一端を示すものだ。
姫たちの輿入れによる「ネットワーク」は,「夫より位が上の妻」の実相にほかならず,明治維新後における近代日本で「覆い隠したかったもの」(170ページ)。なかでも将軍家姫君の降嫁は公儀による大名支配の「最重要級の形式」(128ページ)であった。著者は,本書を通じて大名間や公家・武家間における閨閥によるネットワークの形成を見たかったのだろう。大江戸期の妻上位社会とは徳川幕藩体制と表裏一体の関係にあり,後者が瓦解すれば必然的に消滅する。江戸から明治への転換期=近代日本の成立期は「姫さまの存在が消されていく過程」(あとがき)でもなければ「事実は消され,伝統は書き換えられた」(同)のではない。「大江戸の姫さま」の存在そのものが必要とされなくなったのだ。