162武田晴人著『仕事と日本人』

書誌情報:ちくま新書(698),299頁,本体価格860円,2008年1月10日

仕事と日本人 (ちくま新書)

仕事と日本人 (ちくま新書)

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歴史のなかで労働を考え,近代的な労働観を超克しようという意欲的な書物だ。労働に自己実現を見いだす可能性を否定はしていない。「労働の時間とは別の時間に人がいろいろな形で働いていること」(282ページ)を認識し,「お金にならない仕事をサポートする制度」(285ページ)の実現は,労働時間と非労働時間からなるわれわれの生活時間の選択とそれを許す社会のあり方にかかっていよう。生活時間のあり方のひとつとして労働を位置づけるのは正しい。しかし本書で扱っているのはもっぱら労働,仕事,働くことであって,提言に導くには唐突の感が否めない。
マルクス経済学が「労働のマイナスイメージ」(54ページ)・「労働に対するマイナスのイメージ」(258ページ)を広めた責任があるとはマルクスの読み方としては一面的だろう。「労働日」の章に人間発達の契機を見いだそうとする試みや労働日の制限にかかわる公務労働の重要性に着目した議論の歴史は浅くない。
著者が多用する文章末の「……ようです」は,市民大学の講演をもとにしているとはいっても,伝聞で書いているかのような印象を与えてしまう。