1038服部茂幸著『アベノミクスの終焉』

書誌情報:岩波新書(1495),xiv+204頁,本体価格740円,2014年8月20日発行

アベノミクスの終焉 (岩波新書)

アベノミクスの終焉 (岩波新書)

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アベノミクスの第一の矢はニュー・ケインジアンの金融政策論,第二の矢は土建ケインズ主義,第三の矢は新自由主義の要素が強いとし,アベノミクスの成果があったという証拠はないとしている。
異次元緩和については偽薬効果によるものであって株価上昇も円安もアベノミクスとは無関係だと理論的基礎に遡って展開している。「日本とアメリカと世界の経済が金融緩和によって立ち直ったという証拠をみるまでは,我々には異次元緩和の効果を信じなければならない義務はない」(105ページ)と手厳しいが,株価上昇と円安をアベノミクスの効果としきりに喧伝する論調への真っ当な指摘だと思う。
国土強靱化政策については財政政策と公共事業との理論的関係について論じ,アベノミクスがいう内需主導型ではなく政府支出と耐久財消費・民間住宅投資主導型であることを特徴づけている。財政主導で景気を上昇させる意図を含ませるのであれば,医療,福祉,教育に重点化すべきことを主張している。
成長戦略については小さな政府志向とトリクルダウンに的を絞っていた。小さな政府が経済成長に結びつくとはかぎらず,所得と富の格差を是正する術をもたないとする。また,アベノミクスでもレーガノミクス以来のアメリカにおいてもトリクルダウンは生じていない。
アベノミクスに代わる政策を提起してはいないものの,かつての金融危機とともに消えるはずの「ゾンビ経済学」(クイギン)が甦っているとする著者の見立ては傾聴に値しよう。