書誌情報:文春新書(763),317頁,本体価格850円,2010年7月20日発行
- 作者:中野 雄
- 発売日: 2010/07/20
- メディア: 新書
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丸山に40余年にわたって師事した著者による音楽対話――『丸山眞男 音楽の対話』(文春新書,1999年1月,[isbn:9784166600243])――の続篇になる。丸山に会う度に作ってきた私的ノート(私家版『丸山眞男語録』)をもとに「本店」(=日本政治思想史),「支店」(=クラシック音楽),「夜店」(=政治学)それぞれのエピソードをまとめている。著者がもうひとり「教祖」と仰ぐ官庁エコノミスト・下村治との縁も語っている。著者は,日本開発銀行(当時)の「象徴的存在として,行内に留め置く仕事の一端を担う立場」(日本開発銀行設備投資研究所設立のこと)として関係したからである。
加藤周一が命名したという「精神の往復運動」やいくつかの丸山造語――「引き下げ平等主義」,「引き下げデモクラシー」,「他者感覚」,「卒業現象」,「タコツボ」,「ササラ」,「侮恨共同体」など――を引き出して解読する。私的ノートからの丸山語録の紹介は著者だけのものだ。「卒業現象」に関連して丸山の発言をこう書き留めている。「主体性をもち,精神的にも独立した個人が,属している組織,業界などの壁を越え,共通語を持つ知的共同体の一員として,一切の肩書きなしに,自分の姓名と発言,行動の内容だけで社会の中で屹立しうる人間になること,他人をも,そういう眼で見られる人間になること――更に,そういう人物が,たとえ一人でもいい,この国に増えること」・「結論を言えば,学校を出てからも,本人が自分の意志で,好奇心と探求心を忘れることなく,独りで学び続ける――それ以外に方法はない」(212〜213ページ,傍点省略)と丸山語録を再現している。
丸山がよく語っていたという精神活動三角形論(一番下に叡智 wisdom,その上に知識 knowledge,さらにその上に情報 information が乗っかかっている)(311ページ)も現代性がある。
「『若者を見殺しにする国』などというフリーター出身のライターの書物が全国紙に取り上げられ,一時的にではあるが書店で平積みにされたり,「丸山眞男をひっぱたきたい」という物騒なタイトルの文章を書いたその若者がジャーナリズムから寵児の扱いを受けたりする二十一世紀初頭の日本」(250ページ)と著者の形容は,すくなくとも「一切の肩書きなしに,自分の姓名と発言,行動の内容だけで社会の中で屹立しうる人間になること,他人をも,そういう眼で見られる人間になること」という丸山理論とは矛盾する。
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