563野田光彦編著『コーヒーの医学』

書誌情報:日本評論社,ix+203頁,本体価格1,900円,2010年4月30日発行

コーヒーの医学 (からだの科学primary選書1)

コーヒーの医学 (からだの科学primary選書1)

  • -

コーヒーにはいくつかの有機物質が含まれている。炭水化物(ポリサッカライド,マンノオリゴサッカライドなど),窒素化合物(カフェイン,トリゴネリンなど),クロロゲン酸関連(クロロゲン酸,ポリフェノールなど),カルボン酸(クエン酸,キナ酸など),脂質(カーウェオール,カフェストールなど),揮発性物質(風味,香り成分など)を含み,さらに焙煎過程ではピリジノール類を生成するという。
カフェイン含有量はコーヒーよりも玉露のほうが多いことはよく知られている。かつて薬として飲まれ,コーヒーハウスという情報交換の場を生み出し,生産と消費をめぐる商業と非(あるいは半)商業の対抗の場となっているコーヒーは,評者にとっても毎日の不可欠な飲み物であり,いつも関心のひとつであり続けている。
紹介の時機を逸してしまった,広瀬幸雄著『もっと知りたいコーヒー学――工学屋が探求する焙煎・抽出・粉砕・鑑定 etc.――』(旭屋書店,2007年8月6日発行,[isbn:9784751106877])は,コーヒーを科学する本だったが,本書はコーヒーと疾患や健康との関係についての研究を網羅した(評者が読む)初めての本だ。多人数の集団を対象とした追跡調査(前向きコホート)をもとに,糖尿病・糖代謝,血管病,肝臓・膵臓疾患・がん,消化管疾患・がん,諸臓器のがん,諸疾患と緑茶や紅茶などとの比較をしている。
コーヒー摂取と好ましい動きの相関として肝障害,肝硬変,肝臓がん,低血糖予防,高尿酸血症が,好ましくない動きとの相関として高血圧,脂質異常省,虚血症疾患を有する人の心筋梗塞発症,妊婦の摂取による流産・早産,腎不全患者の高カリウム血症,膀胱がんが指摘されている。消化性潰瘍,胆石症,自殺,骨折,関節リウマチについてはデータ不足またはどちらともいえないそうだ。
もともとは『からだの科学』の特別企画として発刊されたこともあって,啓蒙的な内容にもかかわらず先行研究の英語文献を明示している。健康維持(疾患予防)のためには「テレビ番組や雑誌などによる誇張をもった報道に惑わされることなく,バランスの取れた食生活」(「序にかえて」)に尽きる。