書誌情報:中央公論新社,239頁,本体価格1,600円,2008年12月20日発行
- 作者:嶋中 労
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 単行本
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評者はコーヒーにこだわりを持っていたつもりだった。煎った豆を買ってきてミルで挽き,ペーパーフィルターながらまずは湯をゆっくり注ぎ十分に膨らませる。おもむろに二度目の湯を入れて完成だ。アカマック喫茶店はひところ大繁盛したことがある。
ひところは8割の生豆,2割の焙煎と言われたが,著者によれば生豆6割,焙煎3割,抽出1割がコーヒーを決めると言う。評者のように抽出にいくらこだわっても全体の1割でしかないというわけだ。
本書に登場するコーヒー自家焙煎家はなみのこだわりではない。前著『コーヒーに憑かれた男たち』(中公文庫,2008年3月,[isbn:9784122050105])では御三家(銀座「カフェ・ド・ランブル」(→http://www.h6.dion.ne.jp/~lambre/)の関口一郎,泪箸「カフェ・バッハ」(→http://www.bach-kaffee.co.jp/)の田口護(まもる),吉祥寺「もか」の標交紀(しめぎ・ゆきとし))が,本書ではサブタイトルにあるように,2008年12月に亡くなった標が登場する。「もか」は「全国の自家焙煎コーヒー店の目標」で,標は「コーヒー業界きってのスーパースター」(10ページ)だったという。「自家焙煎コーヒー店も焙煎と抽出の創意工夫で互いに覇を競」い,「全国数千店の中の,いってみれば頂点に,四十余年の長きにわたって君臨した」(17ページ)のが「もか」であり,標だそうだ。コーヒーの味を決める4割の世界で焙煎に命をかけた標の生き様がコーヒーの種類や焙煎・抽出のコーヒー論と人物交差を中心に描かれている。標の師はコーヒー研究家井上誠と『珈琲遍歴』を著した版画家奥山儀八郎。生涯の師は「リヒト珈琲」の襟立博保。倉敷珈琲館(→http://www.kurashiki-coffeekan.com/)の畠山芳子(乗金瑞穂)は襟立の弟子にあたる。
A visit to Japan should include two stops - Mt. Fuji and Mocha. (The East, No.5)と外国で紹介されたことがあるという「もか」。グローバル・スタンダードなど考えず,ブラックで飲み,数十種類のコーヒーをストレートで飲んだり,オールドコーヒーをこよなく愛する日本独自のコーヒー文化を生んだ。
標のコーヒー自家焙煎を論じながら著者のコーヒー論が展開されているとも読める。自家焙煎の世界を知るには遅すぎた感があるが,標のコーヒーを一度飲んでみたかった。
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