152苅部直著『移りゆく「教養」』

書誌情報:NTT出版(日本の<現代>5),252頁,本体価格2,200円,2007年10月5日

移りゆく「教養」 (日本の“現代”)

移りゆく「教養」 (日本の“現代”)

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専門知が称揚されるなかで,教養の見直しが言われて久しい。教養を冠にした大学も新設されるようになったのは,大学設置基準の緩和以来姿を消した国立大学における教養部廃止への反動といえるだろう。戦前からの教養についての揺れと日本的伝統を論じながら,読書を通じた追体験と了解の営み,および政治的教養に教養の核心をみる。著者の教養論はどうやらこれに尽きそうだ。
ヨーロッパにおける教養を論じるさい,学問一般を意味する「哲学」と狭義の「哲学」とが区別されていない。ヨーロッパにおいては教養の中心に狭義の「哲学」がおかれたかのように読めてしまう。
「特にありがたいものとも思わず,他人にそれをひけらかすこともせず,自分で愉しみながら「文化」に浸ってゆくこと」(207ページ)が教養によって得られる境地だ。教養とは文化であるとする吉田健一の言葉を引いて本書を締めくくっている。教養を論じて,それを身につける努力をするものではないとするならば,著者の教養論と整合性に欠けはしないだろうか。