326石井光太著『絶対貧困――世界最貧民の目線――』

書誌情報:光文社,286頁,本体価格1,500円,2009年3月30日発行

絶対貧困

絶対貧困

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日本における貧困問題が自己責任論をようやく超ええたと思ったら,1日1ドル以下で暮らす人々が多数存在する状況と比べればまだましではないかという「まだまし論」が聞こえ始めてきた。
本書は一見そうした「まだまし論」に与する絶対貧困論と読まれる可能性はある。
もちろん違う。著者は,世界各地のスラム,路上生活,売春の「人としての生活」から見ることで,貧困という社会問題の枠組みの共通性を見事に描き出している。同時に,麻薬・武器・臓器・人身売買,子どもの身体に人為的障害を負わせる物乞いビジネス,エイズ孤児,娘を絶対に売春婦にさせないために自分は売春で稼ぐ売春の実態など個々の貧困の問題――著者はこれを貧困学と言う――が浮き彫りにされている。悲惨さと滑稽さが同居している貧困の多彩な顔である。
貧困問題を捉えるには多くの視点が必要である,との著者のメッセージは,貧困問題への理解を確実に進めてくれると思う。