715石井光太著『遺体――震災,津波の果てに――』

書誌情報:新潮社,265頁,本体価格1,500円,2011年10月25日発行

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釜石第二中学校は大震災・津波の5年前市内三校の合併に伴って廃校になっていた。地元ではちょっとした心霊スポットになっていた旧二中は2011年3月12日から次から次へと運び込まれる遺体の安置所――「あの日以来もっとも悲惨な光景がくり広げられた」(262ページ)場所――になった。
遺体安置にかかわる多くの人々がここで展開する現実をいかに受け入れ,立ち直るきっかけをえようとしたのか。著者が遺体安置所で話を聞いた記録はあまりにも生々しい。ここには未曾有の惨劇に直面した当事者たちの声がある。民生委員,医師会会長,歯科医師会会長,消防団員,市職員,陸上自衛隊海上保安官歯科助手,葬儀社社員,住職,市長などからの声は,遺体安置,遺体捜索,死亡診断,歯型,火葬にいたる遺体との対面と弔いまでの「津波の果て」を物語っている。
遺体安置は身元を明らかにするためにはどうしても必要なことだ。溺死かどうかをどう判断するか。手で遺体の鼻を強くつまみ胸部を押す。溺死であればかかった圧力によって白い既報上の水が音をたてて溢れだす。DNA鑑定のための血液採取は法律上医師がおこなわなければならないが,死亡した時点で手足の血管の血は凝固しているため心臓からしか採取することができない。髪を取り,血液を採取し,歯型を取る。
「遺体は誰からも忘れ去られてしまうのが一番つらい。だからこそ,僕を含めて生きている者は彼らを一人にさせちゃいけない」(民生委員の言葉,259ページ)。復旧・復興は約2万人の死者・行方不明者(死亡確認1万5856人,行方不明者3070人:4月12日現在,警察庁まとめ)を真正面から受けとめることからしか始まらない。