173中村健之介著『宣教師ニコライと明治日本』

書誌情報:岩波新書(458),xiii+249頁,本体価格780円,第1刷:1996年8月21日,第2刷:2008年3月14日

宣教師ニコライと明治日本 (岩波新書)

宣教師ニコライと明治日本 (岩波新書)

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アンコール復刊を機に読了した。宣教師ニコライは神田駿河台にあるニコライ堂日本ハリストス正教会復活大聖堂)のニコライだ。レニングラード(サンクト・ペテルベルグ)の国立中央歴史古文書館で1979年に発見されたニコライ自身のおよそ40年間にわたる日記をもとに,ニコライと明治期の正教会の実態を記したのが本書だ。
ロシア正教の異邦伝道者として来日し,幕末から日露戦争後の時期に,函館の地での布教から全国各地を歩きまわり,東京に定着するニコライをくまなく紹介している。強力なロシア帝国の国教であったロシア正教の意味,数少ない宣教師ながらもキリスト諸教のなかでも信者が多かった事情,ロシアのスパイ(露探)と疑われた日露戦争時の受難,松山捕虜収容所をはじめ全国の収容所にいるロシア人捕虜への慰問など一宣教師から見た明治期日本が興味深く描かれている。日本とロシアの違いは教育にあるとし,あまねく行きわたった教育を日本に倣い,民衆(ナロード)のロシア人捕虜の教育に熱心に取り組む姿勢など,ロシアをこよなく愛したニコライの勤勉と誠意が伝わってくる。
ロシア正教が西洋化・近代化の波に抗する面があったがゆえに日本に受け入れたとする著者の見方にはなるほどと思う。明治期日本人の宗教観を知るうえでも参考になる。