962荻上チキ・飯田泰之著『夜の経済学』

書誌情報:扶桑社,269頁,本体価格1,300円,2013年9月29日発行

夜の経済学

夜の経済学

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真面目を気取るわけではないが夜の世界にはきわめて疎い。その夜の世界に経済学のツールを持ち込み,データの分析と思考過程を提示している。フーゾク業界,ワリキリ(売春のこと),需給関係とフーゾクそのものから若者論や社会的排除論にも触れている。フーゾクにはソープランド,ピンサロ,店舗型ヘルス・エステ,デリヘル,ホテヘルなどがあり,建前上はここには売買春はない。あるのはそこから先の個人的な取引である。
建前に終始しないで実態は売買春に切り込んでいるのが本書の特徴だ。売春と貧困との「切っても切れない関係」(82ページ),ワリキリ女性の学歴の低さ(102ページ)や「約版数が精神的になんらかのトラブル」(103ページ)を抱えていること,「貧困型売春が多く,移動性・移住性が低いワリキリ嬢」(111ページ)が浮かび上がる。「ソープランドはもちろん,非本番系風俗ですら,「最後の性行為」がしばしば行われているという実態」(219ページ)を指摘し,貧困と売春が現代でも結びついている。
「現代の風俗や売春の背景にも,貧困問題や暴力の問題,教育機会や就労機会のロス,精神医療などの不足といった,複合的な論点」(220ページ。ちなみに引用文は橋下徹大阪市長慰安婦問題と海兵隊風俗活用提言への批判的コメントから)があることを教えられた本である。