066奥田実紀著『タータンチェックの文化史』

書誌情報:白水社,225+ii頁,本体価格2,300円,2007年5月10日

タータンチェックの文化史

タータンチェックの文化史

  • -

伊勢丹三越はオリジナルのタータンチェックを持っている。正式な名称があるとのことで,伊勢丹はアンシェント・マクミラン三越三越センテニアルだそうだ。女子高生の制服にもタータンチェックは随分使われている。日本では古くから格子柄が衣服などに使われてきたが,ここでいうタータンチェックとはスコットランドの毛織物のタータン(スコットランド・タータン)。イングランドスコットランドとの交流が本格的になった明治時代に紹介されたらしい。
第1章(タータンに彩られたニッポン)では,ファッション,音楽,映画,本など身近にあるタータンチェックの話題を取り上げている。ベイ・シティ・ローラーズチェッカーズ,映画『ブレイブ・ハート』や『ロブ・ロイ』,『キャンディ・キャンディ』,夏目漱石森鴎外も登場する。
タータンを生んだスコットランドの歴史については第2章で素描し,タータンとスコットランドとの結びつきについては第3章で触れられる。タータンは,日本で言えば家紋のようなもので,氏族(clan:クラン)の血縁をあらわす。一族には決まった柄があり,柄をみれば家柄がわかるというわけだ。タータンの登録と管理についてはまだ統一されていないようだ。伝統と商用利用との併存の難しさがあるのだろう。
タータン生地や国・州のタータン(第4章)とタータン工場や博物館の見聞録(第5章)もおもしろい。スコットランドからの移民が多いカナダやアメリカでは,国および州の公式・非公式タータンがあるとは初めて知った。日本にはまだ国が認めたタータンはない(認定タータンを作ろうという動きはあるのかどうかも知らない)。
そういえば,本書にも登場する『ブレイブ・ハート』のメル・ギブソンスコットランド系,『ハイランダー 悪魔の戦士』のショーン・コネリースコットランド出身だった。本ブログでも度々触れているアダム・スミススコットランド出身だ。本書にはスミスは残念ながら登場していないが,「蛍の光」 Auld Lang Syne の作者ロバート・バーンズは一回出てくる(「アダム・スミスとAuld Lang Syne」https://akamac.hatenablog.com/entry/20070323/1174630125 参照)。スミスはタータンを使ったか,使ったとすればどのようなタータンだったか。6月27日にイギリスの第74代首相になったゴードン・ブラウンスコットランド出身だ。グラスゴー出身で,スミスが生まれたカコーディーの高校を経てエディンバラ大学に進学した。タータン同様スコットランドからは当分目が離せない。スコットランド男性の正装タータン・キルト(スカート仕立)の下には何も着けないというのは以前にも聞いたことがある。女王の前で足を高く上げるのが「伝統」らしいが。
本書は「気軽に読めるタータンの入門書のような本」(あとがき)。毛織物製品としてのタータンの盛衰についてはほとんど触れられていない。産業史と文化史が交錯するとさらにおもしろい。
著者のホームーページ:http://www.geocities.jp/writermiki_okuda/
著者のブログ:http://plaza.rakuten.co.jp/okudamiki/