265リヴィエル・ネッツ/ウィリアム・ノエル著(吉田晋治監訳)『解読! アルキメデス写本――羊皮紙から甦った天才数学者――』

書誌情報:光文社,442頁,本体価格2,100円,2008年5月30日発行

解読! アルキメデス写本

解読! アルキメデス写本

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かつてのローマ帝国コンスタンティノープルキリスト教徒によってヨーロッパ随一の栄華の終焉を余儀なくされた。西暦330年から874年の間続いたこの都市には古代の貴重な文献があった。アルキメデスの3冊の写本(パリンプセスト)である。ひとつは1311年に確認されたきりである。第2の写本はレオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオがその写しを読んだもので,1564年まである人の蔵書として記載されていた。第3の写本はコンスタンティノープル陥落から800年後(1906年),ある祈祷書の羊皮紙として使われていることが判明し,陽の目をみた。だが,この写本はすぐ行方不明になり,1998年にクリスティーズの競売に出現した。
円周率の近似値や重心の理論,さらには微積分の考え方を提示したアルキメデス。彼の写本の歴史ミステリーは,写本の歴史と写本に記された数学史上の発見というふたつの興味深いテーマを持っている。IT長者によって落札された写本が,最新のIT技術(=学芸員)と古典文献学(=研究者)を駆使して解読される。写本の修復には和紙が使われる。「17世紀以降の数学はアルキメデスを学び,学ぶことによってアルキメデスへの注釈から脱却した」(斎藤憲の解説)とは「科学革命」につながっていく。
経済学における経済学史と同様に,数学における数学史はマイナーな分野だろう。でも歴史であるがゆえにこんなにおもしろいのだと思う。