012夏目漱石『明暗』のなかの「経済学の独逸(ドイツ)書」再論(その2)

漱石はイギリス留学中(1900年10月〜1902年12月)に『資本論』第1巻英語訳(1902年刊)を購入している(1901年11月以降に購入)。011(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070324/)で触れたように,東北大学附属図書館「漱石文庫」にその『資本論』がある。ウェブで「東北大学附属図書館夏目漱石コレクション」からその一端を見てみよう。
漱石はイギリス留学中に購入した図書の目録を作っていた。「蔵書目録(pdfファイル)」の11ページ,No.343に
K. Marx Capital 2.45
とある。2.45とは2円45銭。さらに,東北大学が整理した目録によれば,詳細がつぎのように記されている。

資料区分: 洋書
函架番号:874
書名/資料名: Capital.
シリーズ名 : International library.
著者名: Marx, K.
その他の責任者: trans. fr. the third German ed. by S. Moore & E.
出版地: London.
出版者: Sonnenschein.
出版年: 1902
冊数/ページ数: 816p.
大きさ: 21cm.
分類: 哲学
件名: Philosophy.
マイクロフィルム:(巻・開始コマ)漱石文庫マイクロ版集成 [No.0200] 0480-

漱石は多くの書物に書き込みをしているというが,この『資本論』にはその種のものはないという(筆者は未見。服部文男による。)。しかし,繰り返すが,漱石蔵書には『資本論』のドイツ語版は見あたらない。英語訳で816ページ(前付けを含めると850ページ)からドイツ語オリジナルもそれと同等以上と推測したか,あるいはどこかでオリジナルを実際に目にしたか。服部は,『明暗』連載の2年前1914年に刊行されたカウツキー版『資本論』第1巻を実見していた可能性について示唆している(011(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070324/)に掲載『マルクス探索』94ページ)。いずれにしても,漱石が『明暗』に「比較的大きな洋書」(五)・「一番重くて嵩張った大きな洋書」(三十九)・「経済学の独逸書」(同)・「大部の書物」(同)を登場させるなんらかの理由があったと考えるしかないだろう。(この稿またまたつづく)