029稲垣恭子著『女学校と女学生――教養・たしなみ・モダン文化――』

書誌情報:中公新書1884,246頁,本体価格780円,2007年2月25日

女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 (中公新書)

女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 (中公新書)

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男子の上級学校進学目的の旧制中学校とは異なり,女学校(高等女学校)は「良妻賢母」の言葉に代表される家庭婦人としてふさわしい知識や技能,態度の養成を目的としていた。本書はその女学校と女学生の姿を描き,女学生文化と女学生のイメージが創られていく過程を描こうとしたものだ。男子の教養主義の系譜とは異なる女学生の文化(「もうひとつの文化の水脈」)を描こうというわけだ。女学生文化がたしなみともモダンな教養とも大衆モダンとも一部重複しながらも独自の文化を占めるがゆえに,憧憬と羨望と同時にたえず批判があったという。著者は,本書のなかで「アンビヴァレント」と何度も評している。著者は「『飛翔感』をともなわないこだわりのなさに付随する階層的なイメージ」(217ページ)にその原因を発見している。
日記,雑誌,服装,ミッション女学校などの観察と折にふれての女学校史の叙述は本書の特色といえる。「もうひとつの文化の水脈」は女学生が享受した実際の文化である。と同時に,本書はもうひとつ大事なロジックを用意する。「もうひとつの文化の水脈」を通して創られた(軽薄であるとか西洋かぶれであるとかの)女学校と女学生のイメージは,それまで西洋文化や教養に追随してきた近代日本の自画像という指摘だ。戦後の女子大生亡国論が大学における教養や学生文化の衰退あるいは変容にたいする知識人の表象であったのとまったく同じ構図。語る側の不安や危惧の表象として戦前の女学生と戦後の女子大生にたいするイメージがあるという点では共通することになる。
文化論と表象論が交錯する魅力的な本である。