昨日から学会出席のため北海道大学に来ており,空き時間を利用して北海道大学総合博物館で開催されている標記展を見ることができた。今橋映子編著『展覧会カタログの愉しみ』を本ブログで取り上げたことがあり(http://d.hatena.ne.jp/akamac/20070713/1184320430),図録も買った。今回の「ファーブルにまなぶ」展は,日本では北海道大学総合博物館(2007.7.1-9.17),国立科学博物館(2007.10.6-12.2),北九州市立いのちのたび博物館(2007.12.22-2008.2.11),滋賀県立琵琶湖博物館(2008.4.29-8.31),兵庫県立人と自然の博物館(2008.9.20-11.30)で開催され,その後フランス国立自然史博物館で開催される。ファーブル『昆虫記』全10巻の10巻目が刊行されてから100年を記念したものだ。
「ファーブルにまなぶ」展は,ファーブルに関する展示資料をごく一部含むだけで,各博物館の所蔵品を展示するところに特徴がある。ファーブルにちなんで所蔵品を展示しているだけといえなくはないが,昆虫への興味をかきたててくれる企画である。同時に「レイチェル・カーソン 生誕100年記念パネル展」も開催していた。
図録は152ページで1,200円。北大生協でも売っていた。昆虫および昆虫記に関する小論がちりばめられ,門外漢の評者にとっては望外の書物だ。『昆虫記』のなかで,ハエ類がハチたちの盲点をついて巣と獲物と卵を盗んでしまうことをとらえて「プルードン主義者」と罵ったことや狩りハチの研究に日本人研究者が大きな進展をもたらしたことなど多くのことを教えてもらった。
日仏共同企画「ファーブルにまなぶ」展公式サイト:http://www.museum.hokudai.ac.jp/exhibition/kikaku45/index.htm
【図録もくじ】
章 | 内容 | タイトル | 執筆者 | 所属 |
---|---|---|---|---|
第1章 昆虫記の世界 | 1 本能と虫 ファーブルをめぐって | 本能と虫 ファーブルをめぐって | 日高敏隆 | 京都大学(名)・総合地球環境学研究所顧問 |
- | 2 狩りをする蜂たち | アナバチ類の狩り | 郷右近勝夫 | 東北学院大学 |
- | - | 竹筒に巣を作るハチたち | 橋本佳明 | 兵庫県立大学・兵庫県立人と自然の博物館 |
- | 3 昆虫をめぐる複雑な関係 | オニグモとベッコウバチとヤドリニクバエ三者の複雑な関係をめぐって | 遠藤 彰・遠藤知二 | 立命館大学・神戸女学院大学 |
- | 4 花と昆虫の相互関係の展開 | ハナバチ社会への第一歩 | 宮永龍一 | 島根大学 |
- | - | フタバガキ林の一斉開花と花粉を運ぶ昆虫たち | 酒井章子 | 京都大学 |
- | 5 スカラベたちの世界がどう見えてきたか | 糞虫の巣づくりと親子関係 | 佐藤宏明 | 奈良女子大学 |
- | - | モンシデムシの親子関係 | 鈴木誠治 | 長岡技術科学大学 |
- | コラム | ツヤエンマムシ | 大原昌宏 | 北海道大学 |
- | 6 生き物のコミュニケーション | コオロギたちの鳴く季節 | 正木進三 | 弘前大学(名) |
- | - | コオロギの鳴き声の地理的変異 | 角(本田)恵理 | 東京大学 |
- | - | マツノギョウレツケムシガ | 安藤 哲 | 東京農工大学 |
- | コラム | マツノギョウレツケムシガの分類学的位置 | 上田恭一郎 | 北九州市立いのちのたび博物館 |
- | 7 化学分子から虫の世界をながめる | オオクジャクガのフェロモン | 安藤 哲 | 東京農工大学 |
- | コラム | 「昆虫記」のカメムシ | 友国雅章 | 国立科学博物館 |
- | - | アリの道しるべフェロモン――ファーブル先生が間違えたアリの道しるべフェロモンの謎解き―― | 山岡亮平 | 京都工芸繊維大学 |
- | - | 植物のかおりが媒介する生態系生物間相互作用ネットワーク | 高林純示 | 京都大学 |
- | コラム | キンバエの観察 | 桝永一宏 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
- | 8 アブラムシをめぐる世界 | 虫こぶをつくる虫――ワタムシの奇妙な生活―― | 秋元信一 | 北海道大学 |
- | - | ファーブルが見なかった小社会:ポプラのゴールの中のアブラムシ | 青木重幸・黒須唄子 | 立正大学・中央大学 |
- | 9 クモをめぐる世界 | クモはなぜ自分の網糸に絡まないのか? | 小野展嗣 | 国立科学博物館 |
- | 10 オサムシの生態 | ファーブルが観察したオサムシの習性 | 八尋克郎 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
- | - | オサムシの系統進化と生活史進化 | 曽田貞滋 | 京都大学 |
- | 11 ミノムシの交尾と産卵 | ファーブル昆虫記のミノムシを読んで | 三枝豊平 | 九州大学(名) |
第2章 ファーブルの時代と日本 | - | 1 ユンタ地方の荒地の研究所――ジャン-アンリ・ファーブルのアルマス―― | アンヌ・マリー・スレゼック | フランス国立自然史博物館 |
- | コラム | フランスのセミ | 林 正美 | 埼玉大学 |
- | - | 2 博物学者ジャン-アンリ・ファーブル | 松原秀一 | 慶應義塾大学 |
- | - | 3 虫の文化史 | 小西正泰 | 生物文化史家 |
- | - | 4 虫たちをめぐる自然観の変遷――ファーブルの疑問は解けたのか?―― | 遠藤 彰 | 立命館大学 |
- | コラム | イッサールの森の虫たち | 野村周平 | 国立科学博物館 |
- | - | 5 ファーブルと写真 | 今森光彦 | 写真家 |
- | - | 6 『ファーブル昆虫記』がアマチュア昆虫愛好家に及ぼした影響 | 宮武頼夫 | 関西大学 |
- | - | 7 ファーブルと日本のアマチュア研究者 | 布谷知夫 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
- | - | 8 昆虫記を読む | 養老孟司 | 北里大学(名) |
第3章 100年後の昆虫記 | - | 1 家畜化された昆虫たち | 梅谷献二 | 農業・食品産業技術総合研究機構 |
- | - | 2 滋賀県湖北地域の蚕糸業 | 寺本憲之 | 滋賀県農業技術振興センター |
- | - | 3 昆虫ロボットの研究 | 神崎亮平 | 東京大学 |
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