書誌情報:朝日新書(257),237頁,本体価格740円,2010年9月30日発行

- 作者: 楠木新
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/09/10
- メディア: 新書
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評者の学生への就活アドバイスはいたって単純である。マニュアル本やマスコミ・ネット情報にはほどほどつきあうこと(本書の7つの誤解の5と6に相当)を前提に,
- 新聞を読む
- ゼミに積極的にかかわる
- 一生記憶に残るくらい卒論作成に挑戦する
である。最後の項目は実際には内定が出た後なので,就活までには2項目だ。第1項目についてはスクラップをしたり,触発された問題を掘り下げ,ゼミでの話題にすることを含むので,第2項目しか残らない。「(ゼミの文献や新聞・資料を)読む,(ゼミに)出る,(ゼミで)発言する」が就活ということになる。もちろん,企業研究やエントリーシート,面接などの要点はゼミ活動の中身に含まれる。就活のための就活ほど無意味な活動はないと思う。就活を意識しつつも就活を自己目的化しない教育を試行していることになるのかもしれない。
いまや就活塾がある時勢で,大学の教育力があらためて問われていることを十分意識すればこそ,シンプル・イズ・ベストでいくしかないと思っている。
さて,本書は「父と娘の就活日誌」の経験を散りばめ,採用側の視点から就活のポイントをまとめている。就活マニュアル本といえなくもないが,学生への応援の姿勢がいい。田中秀臣本(下記関連エントリー参照)と比べても見劣りしない。
大学の教職員が一般企業で働いた経験が少ないがゆえに,どこでどういう仕事をするのかを学生に伝えられていないという批判は半分当たっている。社会人経験者であっても変化する環境からみれば過去のことしか伝えられないかぎりでは限界がある。社会との連携によるフィードバックを基礎に対応能力の育成という大学教育レベルで考えたほうがいい。
大学は知識を教えすぎており,「知識の獲得の仕方や知識をどのように活用するか」(226ページ)についてはあまり教えていないという批判。これは個々の講義にもとめるのは酷だ。カリキュラムの体系や卒業時で全体として獲得できるものだろう(カリキュラム・マップ,ディプロマ・ポリシーなどが該当する)。
学生の自己表現能力を高めるトレーニングが必要だという意見にはゼミで養成できると答えることができる。
学びの喜びと厳しさを知った延長軸に就活があってほしい。
- 関連エントリー
- 石渡嶺司他著 『就活のバカタレ――企業・親・学生が聞きたい&言いたい本当の話!――』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100827/1282921613
- 辻太一朗著『就活革命』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100623/1277302048
- 大塚英志著『大学論――いかに教え,いかに学ぶか――』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100506/1273156602
- 常見陽平著『就活難民にならないための大学生活30のルール』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100429/1272554173
- 山内太地著『こんな大学で学びたい!――日本全国773校探訪記――』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100427/1272381894
- 外国人留学生のための就活ガイド→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100418/1271596072
- 海老原嗣生著『学歴の耐えられない軽さ――やばくないか,その大学,その会社,その常識――』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20100214/1266155982
- 田中秀臣著『偏差値40から良い会社に入る方法』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20091119/1258639956
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- 石渡嶺司著『大学進学・就活 進路図鑑2010』→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20090610/1244642789
- 絶望的な「大学の絶望」論――『中央公論』2009年2月号の特集→http://d.hatena.ne.jp/akamac/20090114/1231943106
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