書誌情報:晃洋書房,vi+326+5頁,本体価格4,400円,2012年1月30日発行
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メルヴィルの作品は『白鯨』――そしてスタバの名前の由来のひとつ。イシュメイル(白人)とクィークェグ(黒人),エイハブ(白人)とピップ(黒人)との友情の描写の意味は深く考えることはなかった。「善・無垢・純潔としての白,悪・罪・経験としての黒という世界の二分化と,救済の名のもとでの白の世界獲得神話にメルヴィルは大きな挑戦をした」(9ページ)・「白と黒のヒエラルキーの否定」(274ページ)!――しか知らない。ましてや彼の人となりに大きな関心をもったことはなかった。
本書は,メルヴィルをイギリスをはじめとしたヨーロッパやパレスチナなどへの旅や黒人差別,原住民の迫害,南北戦争,独立戦争,捕鯨,資本主義,ピューリタニズム,ナンタケット,アメリカ北東部の田園地帯,ニューヨークなど「空間と時間」軸において,彼の西洋近代批判を読み取ろうとした力作である。
宗教社会学や文化人類学の知見を援用し,メルヴィルの書簡や日記をも繙いてメルヴィル再評価の主張は文学論に局限されない広がりをもっている。だが,「自然描写を通して従来のヒエラルキーを否定するユートピア世界を再創造した」(289ページ)メルヴィルが徹底して称揚されすぎの感は否めない。著者のメルヴィル讃歌はメルヴィル作品分析と不即不離であり,自然主義への回帰と植民地主義への批判の先にある「どこにもない国」の抽出こそメルヴィル論に込めた著者の立ち位置を示していよう。
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