771ドッブズ,B. J. T. 著(大谷隆昶訳)『錬金術師ニュートン――ヤヌス的天才の肖像――』

書誌情報:みすず書房,vi+330+cxviii頁,本体価格7,500円,2000年6月23日発行

錬金術師ニュートン

錬金術師ニュートン

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ニュートンをして近代科学の開拓者ではなく中世最後の錬金術師と評価を定着させた功績は経済学者ケインズだった。キングズ・カレッジ(ケンブリッジ)のケインズ・コレクション手稿として知られるニュートン文書をオークションで入手し,生誕300年時に「ニュートンは理性の時代の最初の人ではなく,最後の魔術師だ」としたエピソードはよく知られている。科学者ニュートンの多面的な研究に先鞭をつけたのがケインズであった。ケインズ最後の論文はニュートンに関するものだった。
ニュートン錬金術』(寺島悦恩訳,平凡社,1995年,[isbn:9784582537123])の著者による魔術師ニュートン追求書第2弾(主著)が本書である。ニュートン錬金術文書は主要なものだけでもキングズ・カレッジ,バブソン・カレッジ(マサチューセッツ州),スミソニアン協会(ワシントンDC),ユダヤ国立大学図書館エルサレム),ケンブリッジ大学附属図書館にある。他の文書になると,ブリティッシュ・ライブラリー,クリ布団・カレッジ,セント=アンドリューズ大学,トリニティ・カレッジ,王立協会,ボドレアン図書館(以上イギリス),スタンフォード大学イエール大学ハーバード大学テキサス大学ウィスコンシン大学,MIT,コロンビア大学シカゴ大学(以上アメリカ)にある。これほどまでに散逸したのはサザビーによる競売(1936年)で,個人蒐集家に渡ったものもあるそうだ。
本書ではニュートン錬金術文献を悉皆的に分析するのではなく,「注意深く年代を決定した一連の投錨点」(14ページ)からいくつかの手稿を対象にしている。著者の意図は「魔術師」ニュートン像をさらに「彼の仕事すべての宗教的解釈」(17ページ)に広げ,「概念的アプローチ」と「年代的なアプローチ」によって「そっくりひとりの歴史的人間として回復」させることにある。近代科学創生期にあっては自然科学を宗教によって正当化することが必要であった。科学が宗教の支えを必要としなくなる時代には,「ヤヌス的天才」が生涯をかけて挑戦した自然と神との一体性の見地を経過しなければならなかったのだ。