1091小長谷正明著『医学探偵の歴史事件簿』

書誌情報:岩波新書(1474),viii+200+7頁,本体価格740円,2014年2月20日発行

医学探偵の歴史事件簿 (岩波新書)

医学探偵の歴史事件簿 (岩波新書)

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ブログを始める前,篠田達明著『徳川将軍家十五代のカルテ』(新潮新書[isbn:9784106101199])と『歴代天皇のカルテ』(新潮新書[isbn:9784106101731])は読んだことがあった(『偉人たちのカルテ――病気が変えた日本の歴史――』(朝日文庫[isbn:9784022617576]は未読)。たまたまだろうが,ふたりの著者は名古屋大学医学部の出身である。
古代エジプトから現代まで医学の目から見た歴史上のエピソードを26篇に点描した事件簿をおもしろく読んだ。
炭疽菌事件からアメリカ軍も生物兵器研究をしていたことやヒトラーの障害者安楽死計画から事業仕分けによる排除の論理を指摘したりと著者の探偵ぶりは医学的見地にとどまっていない。マラリア発作による終戦厚木基地の反乱事件の顛末やスターリンと医師団陰謀事件とのかかわりなど歴史的事件の切り口は鋭い。医療と人体実験との倫理問題やキュリー夫人のエピソードから核物理学の現在への言及も本書の魅力のひとつだ。
ルイ17世やニコライ二世の皇女・アナスタシアのDNA鑑定,ハプスブルグ家の近親結婚など「歴史の流れなり変調なりの底には,病気や医学・医療があった」(199ページ)と納得できる。と同時に,ヒトラーパーキンソン病による震えやレーガン大統領時の軽度認知障害を知ると歴史の危うさを感じてしまった。
そういえばニュートンが晩年まで錬金術に凝っていたことを最初に言明したのはケインズだったが,それを証明したのはニュートンの遺髪の解析から多量の水銀が検出されたことだった。