893宮内泰介・藤林泰著『かつお節と日本人』

書誌情報:岩波新書(1450),ii+213+7頁,本体価格760円,2013年10月18日発行

かつお節と日本人 (岩波新書)

かつお節と日本人 (岩波新書)

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読み進めていてふとバナナ(鶴見良行著『バナナと日本人』岩波新書,1982年,isbn:9784004201991),エビ(村井吉敬著『エビと日本人』同上,1988年,isbn:9784004300205・同『エビと日本人II』同上,2007年,isbn:9784004311089),ヤシ研究(鶴見良行・宮内泰介編『ヤシの実のアジア学』コモンズ,1996年,isbn:9784906640003)を思い出した。それもそのはず鶴見の直接・間接の薫陶を受けたメンバーによる前著(藤林・宮内編著『カツオとかつお節の同時代史』コモンズ,2004年,isbn:9784906640867,未読)に追加調査を加えたものが本書だった。「あとがき」を読んで合点がいったのだった。
かつお節300年という歴史と台湾,ミクロネシアインドネシアとを結ぶ4000キロの空間から人と人とのネットワーク,かつお節づくりに欠かせない薪(山師)を介した海と山との結びつきが描写されていた。
室町・戦国時代における戦場の携行食(「地味ながら必須の軍用食」・「歴史的軍需物資」39ページ,日清・日露戦争では「日本陸軍・海軍の携行食」34ページ)からはじまったというかつお節(出来上がりからは荒節と本枯節とに大別される。ソウダガツオを使うのが宗田節)が漁船の動力化,生産地の南下,南洋群島の植民地化,「南洋節」の企業化という条件があって4000キロの生産・消費のネットワークを形成する。
かつお節問屋の「にんべん」が開発した「フレッシュパック」が「かつお節という伝統食材の消費を増やしつづける魔法の杖」(128ページ)だったこと,調味料やめんつゆに入れられるかつお節の需要が増え続けていること,愛媛県にあるヤマキマルトモは削り節メーカーであること(荒節を仕入れて削り節にする)など新知見満載だった。
「日本の食文化の基層を支えるうまみ成分をもつかつお節」(37ページ)は,戦争と植民地支配を経て,携行食からだしへの消費の変化をもたらしたことになる。
江戸時代にすでにブランドだった土佐節だが,かつお節生産はいまは鹿児島(枕崎,指宿)と静岡(焼津)で96.4%を占めるそうだ。身近なかつお節がこれほどの物語をもっているとは思ってもみなかった。