021吉川徹著『学歴と格差・不平等――成熟する日本型学歴社会――』

書誌情報:東京大学出版会,iv+260+viii頁,本体価格2,600円,2006年9月15日

学歴と格差・不平等―成熟する日本型学歴社会

学歴と格差・不平等―成熟する日本型学歴社会

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本書は教育社会学者による計量社会学(計量社会意識論)分析による学歴社会論である。現代日本においては意識においても実態においても学歴による格差・不平等が存在する。このことを検証しようとしたのが本書である。現代日本は「親としての学歴観の視界が,自分の前の世代から自分の次の世代まで,このようにひとつの教育制度内におさまるのは,じつは明治以降,初めてのこと」(51ページ)である。これは,たとえば自分は大卒だが親は旧制中学卒業だったりのように異なる教育制度が混在していないことを指している。
著者は,現代日本を成熟学歴社会として,8つの特徴にまとめている。(1)同一教育システムの長期継続,(2)高学歴化の終焉と高原期の継続,(3)大卒/非大卒境界の重要性の増大,(4)学歴経験の世代間同質化,(5)学歴の世代間関係の不平等,(6)学歴下降回避のメカニズム,(7)大卒/非大卒境界の反転閉鎖化傾向,(8)学歴を駆動の起点とした社会構造の維持・強化,がそれだ。
親が大卒以上であればこどもにはやはり大卒以上を,親が高卒であればこどもには高卒を期待する傾向が最近の学歴格差の特徴だとする。大卒の親のもとではこどもの学校でのパフォーマンスや向学心が高く,非大卒の親のもとではそれほどでもない。また,非大卒の親のもとではメリトクラシーの基準を外れても自尊感情を低下させることはない。著者は,これを「学歴下降回避のメカニズム」と呼ぶ。
教育政策を転換したとしてもこのメカニズムの作用が大きければさほどの効果はない。近未来の日本においては学歴以外には階層評価基準や価値観,選好を差異化する要素が見あたらないともいう。大卒と非大卒境界がさらに明確になり,学歴以外の階層要因よりもやや強い社会意識形成効果をもつ。
著者は,格差・不平等の根源を成熟学歴社会の進展にもとめた。もちろん,著者は,この実態を歓迎しているのでも,問題だとして改善策を提示しているのでもない。しかし,著者の問題提起はかぎりなく重い。なぜなら,ホワイトカラーとブルーカラー中流下流,労働者階級の析出などこれまでの分析ツールはほとんど役に立たなくなるからである。現代日本は学歴フェティシズムが蔓延した社会というほかない。