001坂の上の雲ミュージアム

akamac2007-05-12

[introduction]035平川祐弘著『天ハ自ラ助クルモノヲ助ク――中村正直と『西国立志編』――』(http://d.hatena.ne.jp/akamac/20070507/1178531320)で触れたように,4月28日に開館した「坂の上の雲ミュージアム」に行ってきた(写真は第1回企画展テーマ展示の図録「子規と真之」→http://www.sakanouenokumomuseum.jp/display/event001/)。安藤忠雄設計の建物は「”公”のために命を懸けた明治の日本人たちの,力に満ちた時代精神」「”公”のための文化施設」を表現したものだという。三角形を描くスロープで繋がれた展示室を回遊式に上がっていく。小説『坂の上の雲』の「あとがき」にある「のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば,それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう」を十分意識したものだろう。
2階部分がホールになっていて松山市が企画するフィールドミュージアムと『坂の上の雲』とに関する映像展示がある。松山市が位置づけるまち全体を屋根のない博物館に見立てその中核にこのミュージアムを置くというコンセプトの説明だ。それぞれの施設を実際にどのように連結させるかの具体化はこれからだ。ライブラリー・ラウンジとして『坂の上の雲』に関する書籍コーナーと数台のパソコンを置いて展示情報システムがある。書籍コーナーは『坂の上の雲』の各版を揃えているわけでなく,あってもなくてもいいと思うほどのボリュームだ。セルフサービスのラウンジにもなっている。
3階部分は常設展示になっており,「明治の風景」と「『坂の上の雲』とその時代」が,それぞれ明治の面影を残す看板や錦絵と明治時代年表や資料,映像がある。展示の性格からミュージアムオリジナルなものはほとんどなく横浜開港資料館などの資料の複製が主だ。近代国家へと歩みはじめ明治時代を紹介するコーナーだ。
3階から4階へのスロープの壁には,産経新聞に連載(1968年4月から1972年8月)された1296回分が貼り付けられている。もちろんすべてコピー。
4階部分がテーマ展示会場だ。約1年続く最初のテーマが「子規と真之」。少年時代と青年時代とに分けて二人の遺品や資料で紹介している。「『坂の上の雲』とその時代」,「国家の青写真」,「松山におけるお雇い外国人の足跡」,「国民の誕生」,「国民国家の三大義務」,「西洋技術に触れて」,「子規と真之を生んだ松山の土壌」,「維新に乗り遅れた松山藩」,「苦境を乗り越えて」がテーマに関する具体的項目である。さらに,「春や昔 正岡家と秋山家」,「子規と真之の青年時代 「志」と若々しさ」,「子規と真之の青年時代 リアリズム精神」,「子規の歩んだ道 新聞『日本』での子規」,「子規の歩んだ道 子規の最期」,「真之の歩んだ道 海軍での真之」,「真之の歩んだ道 真之の発想」など子規と真之にそれぞれ焦点を絞って二人の生涯が紹介されている(子規については別に松山市立子規記念博物館がある)。
2階のインフォメーションに一筆箋,便箋のグッズ(だけ)があった。ブリティッシュミュージアムには及ばずとも,ミュージアム・グッズの充実を望むしかない。本家本元の司馬遼太郎記念館(こちらも安藤忠雄設計)との運営方式や歴史を考慮しても,坂の上の雲ミュージアムは見てもらうという施設にとどまっている。ミュージアムと入館者との一体感が感じられないのだ。評者が司馬遼太郎記念館に行ったときには多くの地元の(?)シニアがボランティア(?)で動き回っていた。新規利用者とリピーターをどれだけひきつけることができるかは,企画そのものとフィールドミュージアムの中味にかかわるだろう。