120鈴木しづ子著『『男女同権論』の男――深間内基と自由民権の時代――』

書誌情報:日本経済評論社,vii+304頁,本体価格3,000円,2007年10月15日

『男女同権論』の男―深間内基と自由民権の時代

『男女同権論』の男―深間内基と自由民権の時代

  • -

著者の「深間内基(ふかまうち・もとい)を知っていますか」(日本経済評論社『評論』第163号,2007年10月号,8-9ページ)によって,本書を「知った」。
J. S. ミルの The Subjection of Women, 1869(直訳は『婦人の隷従』)の本邦初訳は,本書の主人公深間内基によって,『男女同権論』として1878(明治11)年に公刊された。ただし,全訳ではなく,抄訳であり,全訳としては野上信幸訳『婦人解放の原理』1921(大正10)年,を待つことになる。
本書は,深間内(1846-1901,弘化3-明治34)についてのおそらく最初の研究書である。ミル研究者の間では,抄訳とはいえ『婦人の隷従』を最初に翻訳した人物として知られていたが,その人となりについてはほとんど知られていなかった。深間内は,現在の福島県田村郡三春町に生まれ,慶應義塾で英学を学び,高知志学舎の英学教員,仙台(宮城)師範学校教員となる。高知および仙台で自由民権運動にかかわっており,仙台女子自由党結成への道を開いたとされる。
著者は,深間内の生涯を,三春,慶應義塾時代,高知時代,仙台時代と丹念に追跡し,時の自由民権運動との関係から彼の生涯を跡づけている。深間内という人物を通してみた自由民権運動史ということができる。
深間内の翻訳書と翻訳史については,第1部補章と第2部で概略が触れられている。ミルについての言及も限られているとはいえ(ミルについては,『杉原四郎著作集II 自由と進歩 J・S・ミル研究』藤原書店,2003年8月,asin:4894343479,参照),明治初期におけるミル受容の時代的背景を翻訳者・教育者・自由民権家であった深間内の生涯からうかがいしることができる。
深間内が参照した原書はフィラデルフィアで刊行されたアメリカ版(1870年)であり,福澤諭吉が当地で買い求めた書物の一書ということだ。