154鶴見俊輔著『評伝 高野長英 1804-50』

書誌情報:藤原書店,422頁,本体価格3,300円,2007年11月30日

評伝高野長英―1804ー50

評伝高野長英―1804ー50

  • -

初版は1975年であり(朝日新聞社刊),ながらく絶版だった。「蛮社の獄」疑惑で囚われの身となり,のち脱獄し,上州,長岡,水沢,米沢,宇和島,名古屋などを転々とした。長英の脱獄は,著者によって「封建社会の道徳におしつぶされない弾力的なエゴ」(231ページ)の持ち主として,「封建時代をぬけでて近代の精神をになう最初の人びとの一人」(同上)と位置づけられ,「封建社会の道徳にエゴの要求をしたがわせ」(同上),「封建時代の精神をになう最後の人びとの一人」(同上)としての渡辺崋山と対照的に描かれる。
長英の出生地・水沢における貫高制や石高制による家柄重視の環境の詳述,江戸に出て長崎に学ぶ「旅する医者兼自由大学主宰者」(143ページ)の描写,「蛮社の獄」前後の「パムフレティーア」(180ページ)としての活躍,そして本書のほぼ半分を占める脱獄後のトレースと,約30年前の労作がそのまま再現されている。
司馬遼太郎の諸作品,吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘(上)(下)』(新潮文庫,1993年3月,(上)[asin:4101117314],(下)[asin:4101117322])や同『長英逃亡(上)(下)』(新潮文庫,1989年9月,(上)[asin:410111725X],(下)[asin:4101117268]),「蛮社の獄」の首謀者かつ長英捕縛の指揮者であった鳥居甲斐守忠耀を描いた平岩弓枝『妖怪』(文藝春秋,1999年1月,[asin:4163182209],文春文庫,2001年10月,[asin:4167168758])などの歴史小説ももちろんおもしろかったが,資料文書に聞き書き,現地調査を加えた評伝はいまなお読みごたえがある。
愛媛県高等学校教育研究会地理歴史・公民部会編『愛媛県の歴史散歩』(山川出版社,2006年3月,[asin:4634246384])には,本書にも出てくる宇和島高野長英居住地(当時の建物はなく,民家の前に,水沢出身の後藤新平揮毫による石碑)と卯之町高野長英の隠れ家(二宮敬作の離れ。当時は2階だったが現在は1階のみ現存し,県史跡指定)の紹介がある。評者もかつてこの場所を訪れたことがある。

脱獄中とはいえ,宇和島藩お抱えで翻訳料は別途オプションという四人扶持を与えられ,兵書の翻訳や久良(ひさよし)砲台(御荘町,現愛南町)の設計・建設にあたった。
本書カバー画は,本エントリーで触れた,ドナルド・キーン著(角地幸男訳)『渡辺崋山』(https://akamac.hatenablog.com/entry/20080104/1199430574)に出てくる椿椿山筆「高野長英肖像画」だ。