書誌情報:現代書館,270頁,本体価格2,200円,2018年3月10日発行
シーボルトの娘・楠本イネについては,TBS「オランダおいね」(横光晃脚本,1970年)とNHK「花神」(司馬遼太郎原作,1977年,上[isbn:9784101152172],中[isbn:9784101152189],下[isbn:9784101152196])によって広く知られるようになた。吉村昭著『ふぉん・しいほるとの娘』(1978年,上[isbn:9784101117317],下[isbn:9784101117324])も「史実」にもとづいた小説ながら,イネの人物伝として定着した感すらある。
本書は,イネと家族の実像を再現すべく,「最新のものも含めて既出の史・資料,文献・図書・論文を検証し」(「まえがき」),「通説・誤説・伝承等と史実を闡明し,良質の史料のほぼすべてを」「収録」(「あとがき」)した意欲作である。
イネの生母・たき(其扇),イネ,イネの娘・高子(父親は石井宗謙),さらには高子の夫・三瀬諸淵,再婚相手・山脇泰介,婚外子(著者独自の推定がある)とほぼ6代の消息を伝えている。イネと高子の劇的で悲痛な生涯を周辺人物の諸資料から読み解いていた。
「コラム」で愛媛県内では二宮敬作ゆかりの西予市と三瀬諸淵ゆかりの大洲市がイネの顕彰に積極的であることを紹介している。東京で開業したイネが「お国はどちらですか?」と訊かれると「伊予の宇和島です」と答えたというが,「宇和島市はイネ,高子,諸淵の顕彰には無関心で,見るべきものはない」(253ページ)と言い切っている。イネと宇和島や旧宇和島藩との繋がりは,本書で多く触れられている。宇和島市だけでなく,西予市,大洲市との協働があってもいい。
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