090鹿児島国際大学3教授解雇事件についての主な裁判経過

鹿児島国際大学3教授「不当」解雇事件について,2回書いた(「鹿児島国際大学3教授解雇事件で学園側の上告棄却」https://akamac.hatenablog.com/entry/20080324/1206340676と「鹿児島国際大学3教授解雇事件(続報)」https://akamac.hatenablog.com/entry/20080325/1206437092)。処分された3教授支援の意味を込めてであったが,「不当」処分を受けた教職員が内部事情を駆使しながら存分に発言したり反論したりする自由はないことに気がついた。というのも,この件では,インターネットなどでの支援を理由に,2002年の10月,裁判所が懲戒解雇を認めなくても普通解雇すると学園側から通告されたこともあったからである。
そんなこともあって,ここではすでに3月24日に公開されている(記者会見等で配付された資料:http://university.main.jp/blog5/archives/2008/03/post_1260.html)をもとに,3教授のおひとりが修正された文書を掲げる。掲載にあたっては本人からの了解を得ている。

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鹿児島国際大学三教授懲戒解雇事件についての主な裁判経過
2008年(平成20年)3月29日

平成14年3月29日,鹿児島国際大学を経営する津曲学園理事会は,経済学部の三名の教授を3月31日付で懲戒解雇処分とする決定を行った。主な処分理由は,平成11年度に経済学部が行った教員公募での採用候補者の審査と決定が「不当」であったというもの(乙45号証の2)。経済学部教員選考委員会での選考と教授会での決定に基づいて推薦された採用候補者を当時の学長の判断で不採用とした上,学園理事長の下に調査委員会や懲罰委員会を設け教員選考委員会メンバーと経済学部長を処分した。
なお,理事長の下に設置された二つの委員会は,大学教員の人事(この場合は懲戒処分)に関わる重要な委員会であったにもかかわらず,教授会や大学評議会での審議や承認を経ることもなしに設けられた。また調査委員会の委員長には,選考委員らからの事情聴取もせずに委員会での審査と決定は不当であったと決め付けた学長自身が就き,懲戒処分案の理事会への提案も学長自身が行った。当時の学長は,選考委員会が選定した採用候補者は「科目不適合」であったと喧伝したが,同候補が抜群の研究業績を有する優れた研究者であったことは後に学長側も認めており,その科目適合性については当該分野屈指の代表的学者たちが裁判所に提出した「意見書」で幾重にも証言している(甲44〜48号証)。
この懲戒解雇処分に対して行われた主な裁判は次の6つである。
(1)地位保全等仮処分申立事件〔平成14年(ヨ)84号〕
平成14年4月5日に三教授側が,鹿児島地裁に提訴,同年9月30日に「解雇は無効である」として地位保全等の仮処分決定が下された。担当:平田豊裁判官 
(2)地位保全等仮処分異議申立事件〔平成14年(モ)1538号〕
平成14年12月25日に学園当局側が鹿児島地裁に提訴,平成16年年3月31日に上記仮処分認可が決定された。「決定」の中では「学問的立場の違いを理由に懲戒処分」すべきではないことが説示されている。担当:(池谷泉裁判長,審尋終了後退職)・山本善彦・平井健一郎裁判官
(3)保全抗告申立事件〔平成16年(ラ)43号〕
上記決定を不服として,平成16年4月17日に学園側が高裁に抗告。大量の書面を提出したあと同年9月13日に学園側が提訴を取り下げた。
(4)解雇無効・地位確認等請求事件〔平成14年(ワ)1028号=本訴第1審〕
平成14年11月19日,三教授側が鹿児島地裁に提訴。被告学園側の四証人と被告代表菱山泉理事長(前学長)本人への尋問,原告側の一証人と三教授本人への尋問などを含む15回の口頭弁論(他に3回の円卓協議)を経て,平成17年8月30日に三教授側全面勝訴の判決が下された。判決は「原告らにはいずれも懲戒事由に該当する事実が認められない」から「懲戒解雇」も「普通解雇」も「無効である」として,雇用契約上の地位を確認するとともに解雇処分後の給与と賞与の全額を支払うよう命じた。担当:池谷泉裁判長,市原義孝・平井健一郎裁判官,佐藤武彦裁判長らによる審理を経て,高野裕裁判長・山本善彦・大島広規裁判官が担当し判決を言い渡した。
(5)解雇無効・地位確認等控訴事件〔平成17年(ネ)165号=本訴第2審〕
平成17年9月8日に学園側が控訴。2回の口頭弁論(と3回の電話協議)を経て,平成18年10月27日に三教授側全面勝訴の判決が下された。
高裁は事実と争点について地裁判決よりもさらに踏み込んだ判断を示し上で,地裁判決と同旨の判決を言い渡した。担当:横山秀憲裁判長,浅井憲・林潤裁判官
(6)解雇無効・地位確認等上告提起事件〔平成19年(オ)207号=本訴上告審・平成19年(受)240号=本訴上告受理申立事件〕
本訴控訴審判決を不服として平成18年11月10日付で学園側が高裁を通して最高裁に上告した。最高裁第二小法廷の4人の裁判官が担当し,平成20年3月21日付けで,「裁判官全員一致の意見で」,「本件上告を棄却する」「本件を上告審として受理しない」と決定した。 担当:古田佑紀裁判長,津野修・今井功・中川了滋裁判官
以上のように,解雇処分そのものに関する6つの裁判のうち保全抗告裁判では学園当局側自体が提訴を取り下げ,その他の5つの裁判ではすべて三教授側が全面勝訴した。
これら5つの裁判については地裁・高裁・最高裁で延べ18名の裁判官が担当し,それらを通して,三教授らには懲戒事由に該当する事実が認められないから解雇は無効であり,三教授らの地位を確認するという判定が繰り返し示され,最高裁による上告棄却によって三教授側全面勝訴の控訴審判決が確定した。(なお本件処分をめぐっては,この他にも学園側が支払おうとしなかった賃金についての賃金仮払い申立裁判など幾つかの裁判が行われ,三教授側の勝訴が重ねられてきた)。
公益法人であり国の補助金も受けながら大学を経営している学園としては,以上のような裁判所の判定を厳粛に受け止めて,判決を踏まえた誠実な対応をすべきです。(文責:八尾信光)