177ゲッツ・W・ヴェルナー著(渡辺一男訳)『ベーシック・インカム――基本所得のある社会へ――』

書誌情報:現代書館,220頁,本体価格2,000円,2007年11月20日

ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ

ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ

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ベーシック・インカム構想については,本書で解説を書いている小沢修司の本で知った(小沢『福祉社会と社会保障改革――ベーシック・インカム構想の新地平――』高管出版,2002年10月20日,本体価格2,200円,ISBN:4901793047)。本書の著者は全ヨーロッパで約1,500の店舗と2,100人の従業員を擁するドラッグストア・チェーン「デーエム」のオーナーである。生活に必要な最低限の所得を無条件で保障するというベーシック・インカム構想は,18世紀末のT・スペンス,T・ペインを嚆矢とし,イギリスのスピーナムランド制度(1795年),D・ミルナーの国家ボーナス構想,C・H・ダグラスの社会クレジット論,J・ミードの社会配当論のように発展する。ベヴァリッジ報告による福祉国家的構想への対峙として提案されたのが,J・リーズ・ウィリアムズの新社会契約構想でありベーシック・インカム構想の現代的展開となる。フリードマン負の所得税提案もこの延長と位置づけられる。(以上,小沢の解説による)
ベーシック・インカムが実現すれば,保険,手当,扶助からなる社会保障給付のうちの年金,生活保護,失業保険などの現金給付が廃止され,税制と社会保障制度が統合される。すべての個人への所得の保障という意味では社会主義的であり,賃金の市場による決定という意味では市場主義の徹底であり,労働者にも経営者にも賛否両論の構想ということになる。戦後(とくに80年代以降)における「福祉国家」による社会保障制度が形骸化してきたことを背景に,ベーシック・インカム構想が現実性を帯びてきた。
もちろんベーシック・インカムは,所得保障にとどまるものであり,財源をどうするかという大問題がある(著者は,消費税に財源をもとめている)。だが,ベーシック・インカムあるいは生存権の保障という視点から現代をいまいちど点検してみてもいいだろう。
本書はインタビュー記事をもとにしたもの。一気に読むことができる。
奥付に,視聴覚障害などで活字のままでは読むことのできない人のために,「録音図書」「拡大写本」の製作を認めるとあり,「テキストデータ請求券」がついていた。現代書館ならではのサービスと評価したい。