840伊藤誠著『日本経済はなぜ衰退したのか――再生への道を探る――』

書誌情報:平凡社新書(678),230頁,本体価格780円,2013年4月15日発行

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アベノミクスの「三本の矢」(機動的な財政政策,大胆な金融政策,民間投資を喚起する成長戦略)ははたして日本経済再生をもたらすのか。マルクス派からの雇用と生活の安定を実現するための政策はアベノミクスではない。アベノミクスは,「新自由主義を基調としながら,あくまで「緊急経済政策」としてケインズ主義を便宜的・局部的に利用する」(15ページ)だろうからである。
現代資本主義への批判的軸におかれるのは宇野理論の「労働力商品化無理論」である。それをもとに新自由主義的グローバリゼーションの帰結として金融化資本主義と特徴づけ,労働力の金融化,労働力の債務危機から生活基盤の不安定化と格差の拡大を説明する。
本書の主張である,ケインズ主義的財政・金融政策を手段と使い,現代化した社会民主主義社会主義の政策提案の中味は検討に値する。グリーン・リカバリー戦略,ベーシック・インカム構想,地域通貨の理念と実践がそれだ。「21世紀型の社会民主主義社会主義」は,あらゆるコミュニティ,協同組合,NPONGOなどの力量次第であることをあらためて教えている。経済政策を政治家や官僚の手から地域住民や協力の組織に取り戻すことでもある。