139アンドルー・グリン著(横川信治・伊藤誠訳)『狂奔する資本主義――格差社会から新たな福祉社会へ――』

書誌情報:ダイヤモンド社,xix+305頁,本体価格2,200円,2007年9月28日

狂奔する資本主義―格差社会から新たな福祉社会へ

狂奔する資本主義―格差社会から新たな福祉社会へ

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原題は,Capitalism Unleashed: Finance, Globalization, and Welfare, Oxford University Press, 2006.である。
著者は,22日脳腫瘍で亡くなった。享年64歳。今秋の経済理論学会で特別報告の予定だったが,直前に倒れられ来日が叶わなかった。
著者の名前は,「グリン=サトクリフ・テーゼ」であまりにも有名である。Glyn, A., and B. Sutcliffe, British Capitalism, Workers and the Profits Squeeze, Harmondsworth: Penguin, 1972(平井規之訳『賃上げと資本主義の危機』,ダイヤモンド社,1975年10月,asin:B000J9TN0U)において,資本主義の成長が貨幣賃金率の上昇と利潤マージンの圧縮によって行き詰まったことを論じ,賃金値上げの政治的争点化を主張したものだ。資本=賃労働関係が資本主義の動態を規定するという観点は本書にも一貫しており,賃金上昇と利潤圧縮の構造をあらためて80年代以降の分析にも適用したものといえる。
アメリカとイギリスに代表される自由主義経済圏と北部ヨーロッパの社会民主主義福祉国家を対比的に描き,新自由主義による対応と賃金引き下げを含みながら福祉国家を維持する対応とを詳しく論じている。中国とインドの台頭は北部ヨーロッパ型の経済構造に大きな影響を与え,さらなる賃金引き下げ要因としてあらわれ,福祉国家の危機につながる可能性を見ている。日本については,ヘッジファンドのような金融部門の拡大と複雑性は,その伸縮性を極限まで伸ばしていることによっていつでも金融不安定に結果すること,グローバリゼーションの展開は賃金引き下げに圧力をかけること,日本の所得再配分は増大しているが相対的貧困率非正規労働者の低い賃金を反映)の増大としてもあらわれているとする。
著者の資本主義分析は,福祉の充実と所得不平等をどのように克服するかという問題意識から,ベーシック・インカムを導入した制度改革の方向を示唆することで完結させている。奇しくも遺著となったマルクス経済学者グリンによる新たな福祉社会の提示の意味は重い。