193ドナテッラ・リッピ,クリスティーナ・ディ・ドメニコ著(市口桂子訳)『メディチ家の墓をあばく――X線にかけられた君主たち――』

書誌情報:白水社,222頁,本体価格2,400円,2006年6月10日発行

メディチ家の墓をあばく―X線にかけられた君主たち

メディチ家の墓をあばく―X線にかけられた君主たち

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フィレンツェの高台にあるミケランジェロ広場から町並みを見下ろすと,落書き事件で有名になった花の大聖堂サンタ・マリア・デル・フィオーレのつぎに異彩をはなっている礼拝堂の丸屋根が見えるという。メディチ家の礼拝堂で,メディチ家墓所の名を冠する国立博物館になっている。メディチ家のチャペルはサン・ロレンツォ聖堂であり,この主祭壇を有する内陣に接するように建てられている。
メディチ家の長たちは,かつて都市国家フィレンツェトスカーナ地方を治める君主つまり大公であり,王家であった。権力の不滅性と聖性を主張するためにメディチ家一族の遺骸は,メディチ家墓所である礼拝堂に祭られたのだった。1737年,最後のメディチ家大公のひとりが墓穴へおろされてから,266年と363日を経て,「考古病理学」,人類学,歴史学,考古学の研究者たちからなる国際チームによってX線調査がおこなわれた。「プロジェクト・メディチ」がそれだ。遺骸の皮膚や遺骨から浮かび上がるドキュメントがなんともおもしろい。
16世紀後半のメディチ家ではフランチェスコ一世が有名だが,祖父にあたるジョヴァンニ・ダッレ・バンデ・ネーレは,「最後の傭兵隊長」として知られているという。エルマンノ・オルミ監督「Il mestiere delle armi」(2001年)の主人公である。
落書き事件のさなかに本書を紹介することになったのはたまたまである。