社団法人国立大学協会は,「概算要求基準における国立大学法人運営費交付金の削減幅を3%とする方向の検討について緊急アピール」を出した(7/23)。骨太方針2006年による1%削減をさらに3%削減にする来年度概算要求基準が検討されており,私学助成費も同じ扱いにするという状況にたいするアピールである(http://www.janu.jp/meibo/080723appeal.pdf)。高等教育の充実には国の支援が欠かせない。この問題はひとり国立大学に関係するだけでなく,私立大学における学生納付金依存傾向に拍車をかける恐れもある。
ところで,2004年4月に国立大学はすべて国立大学法人になり,自主的・自立的な大学運営が可能になると喧伝された。その面の効果は一定ある。しかし,たとえば学生定員の変更にかかわる学部・学科再編は概算要求事項であり,法人化以前とまったく変わらず大学の裁量はない。また,大学事務局長人事などは事実上「文科省幹部職員のローテーション出向」であり,これも変わっていない。大学によっては役員に事務局長を入れていないケースもあるが,多くの大学は役員に「登用」している。学長に「選出」されたケースもある。
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- 山口つよし(民主党)のブログ参照→http://www.mission21.gr.jp/yamaguchi/contents/minutes/20319.html(委員会の議事録で,問題の所在がわかる。)
「文科省幹部職員のローテーション出向」とは国立大学の格付けによりステップアップしていくものだ。そのためにも,国立大学には格付けが存在していた。世間での大学ランキングとは一部重なるとはいえ,官僚機構での位置づけとはこういうものだった。原則北から南の順に並べてある。
| 旧帝国大学 | 大学名 |
| - | 北海道大学 |
| - | 東北大学 |
| - | 東京大学 |
| - | 名古屋大学 |
| - | 京都大学 |
| - | 大阪大学 |
| - | 九州大学 |
| - | 筑波大学 |
旧7帝大にそれと同等ということで筑波大学が位置づけられていた。筑波大学の前身は東京高等師範学校,東京文理大学,東京教育大学であり旧帝大ではないが,東京教育大学の「国策」による筑波移転により,旧帝大扱いである(あくまで推測)。次が旧6官立,旧官立,あるいは新8大学といわれる,戦前からある旧医専,旧商大,旧工業大学,旧文理大学である。
旧6とは戦前に旧医科大学だった大学である。熊本医科大学は当初は県立で,のちに国立に移管された。
| 旧6官立大学 | 大学名 |
| - | 新潟大学 |
| - | 千葉大学 |
| - | 金沢大学 |
| - | 岡山大学 |
| - | 長崎大学 |
| - | 熊本大学 |
旧官立大学は上記に4大学を入れる。
| 旧官立大学 | 大学名 |
| - | 新潟大学 |
| - | 千葉大学 |
| - | 東京工業大学 |
| - | 一橋大学 |
| - | 金沢大学 |
| - | 神戸大学 |
| - | 岡山大学 |
| - | 広島大学 |
| - | 長崎大学 |
| - | 熊本大学 |
旧医専を前身として戦後直後に医科大学となった大学を新8(医科)官立大学ということもある。病院格付けという。
| 新8官立大学 | 大学名 |
| - | 弘前大学 |
| - | 群馬大学 |
| - | 東京医科歯科大学 |
| - | 信州大学 |
| - | 鳥取大学 |
| - | 広島大学 |
| - | 徳島大学 |
| - | 鹿児島大学 |
新制大学のうち事務組織に「部制」がある大学を部制大学という(統合前の大学を含んでいる)。
| 部制大学 | 大学名 |
| - | 北海道教育大学 |
| - | 旭川医科大学 |
| - | 岩手大学 |
| - | 秋田大学 |
| - | 山形大学 |
| - | 茨城大学 |
| - | 宇都宮大学 |
| - | 埼玉大学 |
| - | 東京学芸大学 |
| - | 東京農工大学 |
| - | 横浜国立大学 |
| - | 長岡技術科学大学 |
| - | 上越教育大学 |
| - | 富山大学 |
| - | 富山医科薬科大学 |
| - | 福井医科大学 |
| - | 山梨医科大学 |
| - | 岐阜大学 |
| - | 静岡大学 |
| - | 浜松医科大学 |
| - | 愛知教育大学 |
| - | 名古屋工業大学 |
| - | 豊橋技術科学大学 |
| - | 三重大学 |
| - | 滋賀医科大学 |
| - | 大阪教育大学 |
| - | 兵庫教育大学 |
| - | 島根医科大学 |
| - | 山口大学 |
| - | 鳴門教育大学 |
| - | 香川大学 |
| - | 香川医科大学 |
| - | 愛媛大学 |
| - | 高知医科大学 |
| - | 佐賀大学 |
| - | 佐賀医科大学 |
| - | 大分医科大学 |
| - | 宮崎大学 |
| - | 宮崎医科大学 |
| - | 琉球大学 |
| - | 北陸先端科学技術大学院大学 |
| - | 奈良先端科学技術大学院大学 |
これ以外がその他となる(統合前の大学を含む)。
| その他大学 | 大学名 |
| - | 室蘭工業大学 |
| - | 小樽商科大学 |
| - | 帯広畜産大学 |
| - | 北見工業大学 |
| - | 宮城教育大学 |
| - | 福島大学 |
| - | 図書館情報大学 |
| - | 東京外国語大学 |
| - | 東京芸術大学 |
| - | 東京商船大学 |
| - | 東京水産大学 |
| - | お茶の水女子大学 |
| - | 電気通信大学 |
| - | 福井大学 |
| - | 山梨大学 |
| - | 滋賀大学 |
| - | 京都教育大学 |
| - | 京都工芸繊維大学 |
| - | 大阪外国語大学 |
| - | 神戸商船大学 |
| - | 奈良教育大学 |
| - | 奈良女子大学 |
| - | 和歌山大学 |
| - | 島根大学 |
| - | 高知大学 |
| - | 福岡教育大学 |
| - | 九州芸術工科大学 |
| - | 九州工業大学 |
| - | 大分大学 |
| - | 鹿屋体育大学 |
| - | 総合研究大学院大学 |
事務局長の双六はこの格付けによってほぼ決まっており,たとえばノンキャリアの場合,愛媛大学のあと,東京医科歯科大学で上がりで,旧帝大で定年を迎えることはなかったのではないかと思う。キャリアの場合の上がりはもちろん旧帝大だ。事務局長以外の昇進も双六は同じだったとみて間違いない。同じ格付けの場合でもさらに格付けがあっただろうと推測される。
格付けはこれだけではない。学長(旧帝大は現在総長を公式名称にしている)の給与格付けが存在していた。「指定職俸給表の適用を受ける職員の俸給月額」【人事院規則9-42】の「別表」である。指定職とは指定職俸給表の号棒が適用される公務員のことを指す。民間企業の役員報酬にあたる。官僚的格付けの最たるものだ。愛媛大学に職を得て,この規則を知ったときの驚きは形容のしようがないほどだった。東京医科歯科大学と鹿児島大学からすれば愛媛大学と同じかとなるだろうが。法人化以後はこの規則から学長が外れたことはいうまでもない。以下は手持ちの資料による(『給与小六法 平成2年版』学陽書房)。
| 官職 | 号棒 |
| 東京大学長 | 12 |
| 京都大学長 | 12 |
| 事務次官 | 11 |
| 会計検査院事務総長 | 11 |
| 人事院事務総長 | 11 |
| 内閣法制次長 | 11 |
| 警察庁長官 | 11 |
| 宮内庁次長 | 11 |
| 北海道大学長 | 11 |
| 東北大学長 | 11 |
| 筑波大学長 | 11 |
| 名古屋大学長 | 11 |
| 大阪大学長 | 11 |
| 九州大学長 | 11 |
| 警視総監 | 10 |
| 千葉大学長 | 10 |
| 東京工業大学長 | 10 |
| 一橋大学長 | 10 |
| 新潟大学長 | 10 |
| 金沢大学長 | 10 |
| 神戸大学長 | 10 |
| 岡山大学長 | 10 |
| 広島大学長 | 10 |
| 長崎大学長 | 10 |
| 熊本大学長 | 10 |
| 外局の長官 | 9 |
| 会計検査院事務総局次長 | 9 |
| 総理府次長 | 9 |
| 警察庁次長 | 9 |
| 外務審議官 | 9 |
| 財務官 | 9 |
| 農林水産審議官 | 9 |
| 通商産業審議官 | 9 |
| 建設技監 | 9 |
| 内閣内政審議室長 | 9 |
| 内閣外政審議室長 | 9 |
| 内閣安全保障室長 | 9 |
| 工業技術院長 | 9 |
| 弘前大学長 | 9 |
| 秋田大学長 | 9 |
| 山形大学長 | 9 |
| 群馬大学長 | 9 |
| 東京医科歯科大学長 | 9 |
| 信州大学長 | 9 |
| 岐阜大学長 | 9 |
| 三重大学長 | 9 |
| 鳥取大学長 | 9 |
| 山口大学長 | 9 |
| 徳島大学長 | 9 |
| 愛媛大学長 | 9 |
| 鹿児島大学長 | 9 |
| 琉球大学長 | 9 |
東大と京大の学長が別格で最高裁長官(表出なし),それ以外の旧帝大の学長が事務次官や長官,旧官立が警視総監,部制の一部が外局の長官や審議官,とそれぞれ同等となっていた(最新の「人事院規則9-42」→http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S48/S48F04509042.html)。ここにない学長はいまひとつランクが下の「8」で「国立大学の学長(前各項に掲げるものを除く。)」と一括されていた。国立がんセンター総長,航海訓練所長などと同じだ。つまり,学長(=大学)を5ランクに格付けしていたわけだ。法人化以後は学長の給料も独自の裁量で決定することになり,大学独自の給与体系によって決定していることになっている。法人化直後の時期の調査によれば,この格付けを「参考に」,いや「自主的に」決定したことになっている(→http://university.main.jp/blog/archives/001916.html)。現在の学長の給料がいくらかは情報公開にもとづいて公開している大学が多いから,興味があれば是非調べてほしい。
国立大学の格付けは過去のものとなっているのか。文科省の大学政策が法人化以前と以後で変わったとする試金石はこの格付けと「出向」の実質上の全廃でなければならない,と評者は思っている。