175国立大学の授業料免除実態調査

しんぶん赤旗』に全国国立大学を対象にした標記実態調査の結果(2008年12月24日付および25日付)が出ていることを教えてもらった。入手し,読んでみた。全額免除が減り,半額免除が大幅に増加していること,「本紙調査からも,国の予算枠拡大の必要が明らか」としている。
現制度では,国立大学の授業料収入のうち一定額を授業料免除に当てることができ,その分の減収を国(文科省)が補填するとなっている。授業料免除を拡大するためには,「国の予算枠拡大の必要」を主張するのは正しい。ただ,記事で触れて欲しかったことがある。法人化前までの免除比率は国立大学がすべて同じではなかった。大学によって差がつけられており,旧帝国大学に高く割り振られていたのだ(「国立大学の格付けはなくなったのか?」参照→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080728/1217236648)。法人化後是正されたかというと,必ずしもそうはいえない。かねてからの実績に対応した授業料免除額の上限が決められており,この上限を上回れば各大学の独自予算で実施せよということだ。総授業料の何%かは大学毎に決められている。全額免除に充てるか半額免除に充てるかは大学の裁量となる。
東京大学は今年度から世帯主年収400万円以下の学生の授業料を全額免除した。現在国立大学授業料は年間53万5千800円。2人で約100万円と概算すると,20人で1千万円,40人で2千万円ということになる。いずれにしろ,授業料免除制度を充実させようと思えば財政的に余裕がある大学に限られる。
かつて評者がそうであったように,「貧乏学生」にとって奨学金は命の綱だ。日本学生支援機構奨学金の7割が有利子奨学金である。教職などにつけば返還が免除される制度も廃止された*1。年額1万2千円の授業料だった時代(70年代はじめまで。当時の日本育英会の一般奨学金は月3千円でもあった。)の再来は望むべくもないだろうが,「高い学費」を問題にする視点は重要だろう。
ともあれ,「授業料免除者等の比率」と「独自奨学金」をまとめてみた。
授業料免除者等の比率(2008年度前期,数字は%で,全学生を母数にした比率)

大学名 申請者比率 全額免除者比率 半額免除者比率
北海道大学 12.0 1.1 9.1
室蘭工業大学 14.1 0 10.2
小樽商科大学 12.4 2.8 6.3
旭川医科大学 9.2 4.5 1.9
北見工業大学 14.5 0.9 8.6
弘前大学 12.2 1.8 7.7
岩手大学 10.6 2.1 6.4
東北大学 7.3 2.5 2.6
宮城教育大学 9.2 3.1 4.6
秋田大学 12.5 0.3 11.3
山形大学 7.2 3.3 2.6
福島大学 12.8 1.6 9.0
茨城大学 6.0 4.0 1.0
筑波大学 7.1 0.5 5.0
宇都宮大学 9.4 2.9 4.0
群馬大学 10.6 3.1 5.4
埼玉大学 5.9 3.7 0.7
東京大学 6.9 4.6 1.3
東京医科歯科大学 5.1 2.4 0.7
東京外国語大学 5.6 1.5 3.3
東京学芸大学 8.7 1.4 5.6
お茶の水女子大学 5.3 2.2 1.9
横浜国立大学 10.3 3.9 3.7
新潟大学 10.8 0.6 8.6
上越教育大学 13.5 0.1 9.7
金沢大学 13.4 0.6 8.6
福井大学 7.5 2.2 3.9
山梨大学 9.2 1.0 6.9
信州大学 7.4 2.5 3.2
岐阜大学 8.0 2.5 3.2
名古屋工業大学 4.6 2.8 0.5
三重大学 5.4 3.8 1.2
滋賀大学 7.6 4.8 1.0
京都大学 5.6 1.2 3.2
京都教育大学 11.9 0.3 9.2
大阪大学大阪外国語大学 9.9 3.8 3.9
神戸大学 6.6 3.6 0.9
奈良女子大学 11.8 2.6 5.9
鳥取大学 9.6 1.8 6.4
岡山大学 7.0 4.0 0.3
広島大学 5.4 3.2 1.1
徳島大学 8.3 3.2 3.0
鳴門教育大学 10.0 0.4 7.9
香川大学 9.9 0.8 7.7
愛媛大学 11.3 1.8 6.9
高知大学 9.2 3.4 4.2
福岡教育大学 9.9 3.3 5.1
九州大学 10.2 0 7.8
佐賀大学 13.5 1.6 9.9
熊本大学 9.7 2.3 4.9
大分大学 11.9 3.4 3.9
宮崎大学 12.3 2.2 6.1
鹿児島大学 11.1 3.5 3.4
鹿屋体育大学 12.0 3.4 4.7
琉球大学 14.4 0 9.7

福島大学は半額免除に75%免除を含む。九州大学琉球大学は07年前期分。宮城教育大学名古屋工業大学は留学生,横浜国立大学は留学生・院生を含む。
※全国82の国立大学を対象に調査。免除者数を公表したのは55大学。
※回答があったが免除数等を公開しないとした大学は11大学(北海道教育大学千葉大学東京海洋大学浜松医科大学愛知教育大学,滋賀医科大学大阪教育大学兵庫教育大学奈良教育大学和歌山大学島根大学)。
※回答がないまたは後日回答としたのは16大学(帯広畜産大学筑波技術大学東京農工大学東京芸術大学東京工業大学電気通信大学一橋大学長岡技術科学大学富山大学静岡大学豊橋技術科学大学名古屋大学京都工芸繊維大学山口大学九州工業大学長崎大学)。
大学独自の奨学金制度

大学名 内容
北海道大学 企業の寄付をもとに支給。09年度の募集を最後に終了。
北海道教育大学 地域に貢献できる人材の育成を促進するため,優秀学生に対して支給。
室蘭工業大学 国立高等専門学校から3年次に編入学した学生に授業料の半額相当額を支給。
旭川医科大学 看護学科学生に月額3万5千円貸与。卒業後,すぐ同大学病院に常勤の看護職員として勤務した場合は勤務月数に相当する月数分の返還を免除。
弘前大学 一時的に経済的理由により生活が困難な学生に生活費にあてる資金を貸与。1人10万円を上限とし,原則1回。
山形大学 優秀学生に2年間,1人年額36万円支給。
茨城大学 企業の寄付金をもとに,介護・福祉関係を目指し,将来茨城地域で活動できる学生に1人30万円支給。
宇都宮大学 優れている学生に10万円の奨学金を支給。
埼玉大学 企業等からの寄付による企業奨学金
東京学芸大学 授業料免除申請者で授業料免除を受けられなかった学生を対象に選考し給付する奨学金。家計急変時の奨学金。来年度から学費負担軽減の一環として「教職特待生制度」を開始。
東京海洋大学 08年度から,国家公務員採用I種合格者に30万円を上限に支給。
お茶の水女子大学 入学時に成績が優秀であると認められた学生20人に50万円を給付(1回)。
横浜国立大学 学術交流奨励事業派遣留学生奨学金。年間30人,1人10万円支給。
新潟大学 入学試験成績優秀者に各学部から3人,年間20万円,年間学業成績優秀者に各学部・各年次から3人,年間10万円を支給。
金沢大学 成績優秀者に1年分の授業料相当額を給付する制度。
山梨大学 教育研究支援基金をもとに1人25万円支給。
岐阜大学 3年次以上で医学科を修学後,同大学の医学系研究者を志願する学生に修学資金800万円を支給。
愛知教育大学 交流協定大学への留学を希望する申請者中から選考2人に年間60万円支給。交流協定大学の推薦に基づき選考し,2人に年間100万円。
名古屋工業大学 同窓会奨学金制度。年間15人に10万円給付(1回)。免除猶予申請不許可者に対して入学料または授業料相当額を貸与。
三重大学 生物資源学部の3年生に年間60万円支給(2年間)。
滋賀医科大学 医学科・看護学科の成績が各学年1位の学生に月5万円支給(一年間)。
大阪大学 2年次を対象に教養教育において優秀な学生に1人20万円を支給。
奈良女子大学 2回生以上の学生で両親がいない,母子家庭など学資負担者に特別の事情があり経済的に困窮し,優秀な学生に月1万5千円支給。
和歌山大学 家計が急変し,修学困難となり,授業料免除・日本学生支援機構等の支援を受けられない学生などへ無利子貸与。
鳥取大学 優秀学生奨学金制度。
広島大学 後期分の授業料を免除する成績優秀学生奨学制度(06年度から)。入学金,授業料の全額免除を受けられる制度(08年度新入生から)。
徳島大学 工学部の学生に1人年間120万円を給付する企業の奨学生制度。
高知大学 医学部学生に月4万円を1年間のみ支給。農学部森林学科学生に月5千円を1年間のみ支給。
九州大学 2年次以上の学生で,成績優秀,経済的困窮度が高い学生に奨学金を支給。
鹿児島大学 入学試験で優秀な成績を修めた学生に支給。

*1:第一種奨学金(無利息)・第二種奨学金(利息付き)の場合,死亡したり障害をもった時に免除されることがある。また,第一種で2004年4月以降貸与された大学院生のうち特に優れた業績があった場合も免除される。各大学院に一定の枠がある。