263園田茂人編『中国社会はどこへ行くか――中国人社会学者の発言――』

書誌情報:岩波書店,xiii+217頁,本体価格1,800円,2008年5月27日発行

中国社会はどこへ行くか―中国人社会学者の発言

中国社会はどこへ行くか―中国人社会学者の発言

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『世界』2007年2月号から9月号までと,加藤千洋との対談を収録したもの。『世界』掲載時のものは見ていないので,本書で中国人社会学者の率直な発言を読んだ。
都市中間層第二世代に広がる地位不安(李春玲),私営企業化の動向(陳光金),農民工と戸籍制度(王春光),中国における社会的セーフティネット(関信平),家庭教育論とインターネット論(劉能),共産党と伝統回帰(康暁光),公正なルールと不平等の制度化(李培林)を内容としたもので,これらは李との対談を経た3つのキーワード――階層分化,不安心理,新しい価値の共有――に対応させている。
2008年3月に修士論文を書いた中国留学生の指導教員を経験した。中国における人口動態をテーマにしたその論文から,多数の農民工の存在と彼らに市民的権利がないことを知った。王との対談が示すように,人民代表に3人の農民工代表が選出されてもすぐにはこの問題が解消するとは思えない。
今年建国60周年を迎える中国は,その半分が改革・開放の時代だ(2008年に30周年)。中国人対談者7人は「緊張感を失わない楽観論」(加藤,214ページ)の持ち主といえる。中国共産党の指導を前提にした政策への信頼を表明することでも共通しているといえよう。康との対談中,中国共産党の正統性をマルクス主義に依拠することはできないとの指摘は,際だった違いをあらわす唯一の点だろう。たしかに李がこの意見は少数意見と言ってはいるが,評者が参加した2005年武漢大学,2008年北京大学での国際シンポの印象からは,中国共産党やその政策を中国独自の社会主義論(マルクス主義と同じというわけではない)と結びつけて説明できるかに重点があったことだけはまちがいない。