320建畠晢編『ミュージアム新時代――世界の美術館長によるニュー・ビジョン――』

書誌情報:慶應義塾大学出版会,vii+305+33頁,本体価格2,500円,2009年3月24日発行

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2004年から隔年開催している,かながわ国際交流財団と日本経済新聞共催の第3回ミュージアム・サミットの記録である。第1部円卓フォーラム「新たなる美術館像を求めて」(2008年3月21日・22日,湘南国際村センター)と第2部シンポジウム「ミュージアムイノベーション〜変わるミュージアム――7年で入館者数を200万人増やしたルーヴル美術館のマネジメントをさぐる」(同年4月2日,日経ホール)が再現されている。
刊行にあたっては「第I部 世界のミュージアム――今なぜイノベーションが必要なのか」と「第II部 ミュージアムイノベーション――変わるミュージアム」とし,それぞれの基調講演,特別講演,コメント,討論が読みごたえある本として編集されている。第I部では,誰もが所蔵作品とアーカイブを閲覧できるシステムをつくりあげているケ・ブランリー美術館,2010年までに北京で35館,上海で75館,中国全体で1000もの美術館が誕生する勢いと大衆化の課題を指摘した中国美術館の状況,過去の価値観から意味や意義の共同制作者への変化を体現しようとしているスコットランド・ナショナル・ギャラリー近現代美術館,百科全書的な美術館から文化の連結者としての美術館への変容を説くアメリカ・アジア協会は,非営利の文化装置をどのように経営していくかという問題提起をしている。
美術館が,様式のもつ美的価値かバーチャルな情報的価値か,グローバルかリージョナルか,芸術家の創造的行為か市民へのサービスかという美術館のジレンマに立っていること,ホワイトキューブという近代主義的な美術館像の代案が見えているわけではないことなど「イノベーション」を言う意味がよくわかる。
第2部の,百科全書的,普遍的美術館を目指してのルーブルの取組は圧巻だ。ル・コルビュジェの設計による国立西洋美術館(フランス政府が世界6カ国にまたがっている彼の建築や都市計画を22カ所選び,ユネスコ世界遺産申請をしている)は美術史美術館としては評価でき,かつ,独立法人化の波があってもその効率性ではルーブルを凌ぐ。日仏の文化行政の見識の違いが一目瞭然である。地方美術館を襲う指定管理者制度の導入も大陸型かアメリカ型かはては第3の型を目指すのかという日本の美術館の将来に深くかかわっている。
サミットの記録と言ってしまえばそれまでだが,「語りおろし」などという安易な本の編集・出版になっていない。出版社の気概も感じる。
第1回と第2回については,高階秀彌・蓑豊編『ミュージアム・パワー』(慶應義塾大学出版会,2006年,isbn:9784766413069,評者未見)として出版されている。