今日から経済学史学会第73回全国大会(慶応義塾大学三田キャンパス)が始まった。昨日は幹事会に出て,初日の今日は,午前中1報告,午後に3報告を聞いた。以下ではすべて敬称略。
舩木惠子(武蔵大学)「J.S.ミルと女子高等教育――フェミニズムの理論と実践――」は,当時女性に許された唯一の職業である家庭教師(governess)の貧困問題解決とミルの女子高等教育の進展・社会的認知の促進への意図に焦点を当てたものだった。ミルの多様な女性解放運動への関与を主張していた。討論者をつとめた水田珠枝からは,『解放』から『原理』への整合性とハリエット・テーラーからの影響を考慮するとミルの限界をみたほうがいいとのコメントがあった。
午後の第1報告は田中啓太(名古屋大学大学院)「近代的パラダイムにおけるL.ロビンズの方法論の再考」だった。近代的パラダイムである「方法論的個人主義」,「(近代的)主観主義」,「限界主義」,「稀少性システム」からすれば,ロビンズの主張はそれらの特質を持ってはいるが,無差別曲線に関しては矛盾を持っている,とした。フロアからは,効用と選好の区別を明確にして解釈すればロビンズに矛盾はない,とパラダイム内の解決を示唆する意見が複数あった。
第2報告は,評者が司会をつとめた,小峯敦(龍谷大学)「日本におけるロビンズの導入過程――1930年代と50年代,経済学者の反応様式――」。フルペーパーを準備し,かつ要点をまとめたプレゼンがあったため,司会者の仕事はタイムキーパーに徹すればよかった。小峯は,ロビンズの日本への導入史を,稀少性理論および一般均衡理論と経済体制論にしぼり,安井琢磨を例に積極的な受容を,中山伊知郎を例に日本的折衷を,杉本栄一を例に批判もしくは拒絶のイメージを整理した。1930年代以降の近代経済学の定着を受容史から照射する試みで,評者にもとても勉強になった。討論者も含めてのべ6名の発言が可能になったのは,司会者がよかったからか。
第3報告は,片岡剛士(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)・若田部昌澄「経済危機と経済学――70年代大インフレ期の日本のマクロ経済政策をめぐって――」だ。1970年代以降の経済政策という現代的問題に関して,新古典派マクロ経済学が果たした役割を問うという,経済学史学会での報告としてははじめてのテーマである。経済思想が政策決定にどのように関わったのかを問題にすることは,政策決定プロセスや政治の領域とも紙一重である。経済学の有効性を再考することにもなった。
東門向かい側の中国飯店三田店での懇親会に参加し,多くの顔見知りや初見の会員と懇談し,9時前には無事ホテルに着いた。明日の某所での講演の資料作りのため,二次会に行けなかったのが心残りだ。(東京の某ホテルにて)
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