688経済産業省編『キャリア教育ガイドブック――学校と企業・地域をつなぐキャリア教育コーディネート――』

書誌情報:学事出版,143頁,本体価格1,900円,2009年3月6日;第2版2010年12月4日発行

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2005年度から2007年度の3年間,経済産業省委託事業「地域自律・民間活用型キャリア教育プロジェクト」が実施された。全国28カ所の小学校・中学校・高等学校を対象に,教員を支援する民間コーディネーターや支援者としてキャリア教育に参加したことが特徴だった。NPO法人,人材採用関連企業,商工会議所,職人,保護者,大学(教育学部)が「授業をつくる」,「授業を運営する」,「協力者を巻き込む」などの活動を通じて仕事や働くこと,将来を考え,学びと社会のつながりから学びを振り返るというものだった。
本書は前半でキャリア教育の実践例を,後半でキャリア教育のプランニングから実践までのポイントをまとめたものだ。キャリア教育という言葉は,1999年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」で初めて登場した。つまり小学校段階から高等教育にいたるまでキャリア教育を推進するという目的を持っていた。その後キャリア教育を「「キャリア」概念に基づき,「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し,それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」ととらえ,端的には「児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育てる教育」」と定義することになった(「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」2004年)。前後して国の施策として「若者自立・挑戦プラン」(2003年),内閣府特命担当大臣文部科学大臣厚生労働大臣経済産業大臣を構成員とした「キャリア教育等推進会議」が発足し(2006年),「キャリア教育等推進プラン」(2007年5月)を策定してきた。キャリア教育は大学生の就活に関連して言及されがちだが,すでに初等教育から取り組むよう政策課題のひとつになっている。
既存教科を利用したり,学校イベントを活用することから,ゲーム・ワークショップを組み込んだり,外部講師招聘や校外学習などそれこそ多様なプログラムがある。キャリア教育の学習目標を「社会人基礎力」(3つの能力・12の要素)や「職業的(進路)発達にかかわる諸能力」(4領域8分野)にもとめ,小・中・高の段階別に区分した職業的(進路)発達段階・発達課題も明確にしている。最大の問題は受験によってこれらキャリア教育の果実がバラバラになり,最後のツケが大学に回ってくることだろう。
進学校であればあるほどキャリア教育と縁がない。本書を見てあらためてキャリア教育の意義と限度を考えることになった。