756醍醐聰著『消費増税の大罪――会計学者が明かす財源の代案――』

書誌情報:柏書房,270頁,本体価格1,800円,2012年7月25日発行

消費増税の大罪―会計学者が明かす財源の代案

消費増税の大罪―会計学者が明かす財源の代案

  • 作者:醍醐 聰
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: 単行本

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消費税増税法案は可決成立してしまった。「熟議」どころか「未熟議」でことを決してしまった汚点は歴史に残る。自民党政権下で頻発した強行採決と結果においてなんら変わらない。
消費税増税法案をめぐる与党内,与野党間の取引が進行中の最中に出版された本書は,可決成立後の現在でも一読に値する。政府,大手マスコミ,専門家の「大罪」を指摘するだけでなく,マスコミが必ず主張する代案(所得税増税)を示している。消費税増税論の経済活動インセンティブ論,安定した財源論,直間比率是正論を吟味して退け,逆に消費税の逆進性(とその対策として導入予定の「給付付き税額控除」の限界)と転嫁問題を取り上げている。そのうえで財源調達機能と所得再分配機能をもつ所得税改革による代案を主張する。
それだけでなく,特別会計による決算剰余金(毎年度10兆円程度=消費税増税による税収)の一般会計への繰り入れによる財源を確保できると試算している。
IMFの虎の威を借りた消費税増税必至論(「IMFの衣をまとった財務省の用意周到な仕掛け」(258ページ))や「埋蔵金は掘り尽くした」論など政府の「嘘」(それを批判できないマスコミと煽る専門家の弁護論)を徹底して暴いている。ホッブズモンテスキュー,ルソー,スミスの租税思想と消費税論を振り返り,ホッブズ以外に累進税容認もしくは推奨と奢侈品への課税強化・生活必需品への非課税を読み取っている。
「政府は,事業主負担を嫌う経済界をむやみにあと押しするのではなく,正規雇用の拡大が家計の将来不安を緩和し,消費を刺激して企業の業績改善につうじるのだと,経済界を説得していかなければならない。そして,そうした雇用環境の改善による民富の増進こそ,国の税源を涵養する最善の方策なのである」(147-8ページ)。
消費税増税法案にどの党が,誰が賛成したのか。リストはあるから(→http://wiki.livedoor.jp/sennkyo_giinn/),評者はきちんとお返ししたいと思っている。