875平川敬治著『タコと日本人――獲る・食べる・祀る――』

書誌情報:弦書房,213頁,本体価格2,100円,2012年5月30日発行

タコと日本人

タコと日本人

  • 作者:平川 敬治
  • 発売日: 2012/05/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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タコは分類学上は難題軟体動物門・頭足綱・八腕形目に分類される。世界中で200種類,日本近海だけでも50種類棲息しているという。そして日本はタコ食用文化圏でも北限に属している。
著者はタコをもとめて日本と世界を歩き,獲・食・祀にまとめた。執念のタコ百科である。
タコ壺は土製だけでなく貝殻も使う。芭蕉が明石で詠んだという「蛸壺やはかなき夢を夏の月」にあるように,タコ漁はタコ壺だけではない。手釣りもある。手づかみ,ヤス,曳き,カゴ,網なども使う。漁の仕方と地域の詳細から発掘品も調べている。
刺身,湯引き,なます,干す,塩辛,煮つけ,焼く,煮込み,タコ飯などの食も詳しい。松山製造という「串酢ダコ」まで紹介されている(評者未経験)。また,蛸薬師・蛸地蔵という信仰の対象についても触れている。
早坂暁の本にタコが畑の薯を食う話があった。出身地の北条や長浜はタコ漁が盛んだ。タコ飯は愛媛県の代表的な郷土料理だ。また,西予市明浜ではご神体をタコが拾ってきてくれたということでタコを食べない習慣があったそうだ。
シュリーマンが発掘したミケーネ墓地にはタコ金具があったし,ギリシャは古くからタコ食い文化があった。タコ話は日本だけでなく世界に広げて見ている。
繰り返しも少なくなく,「が」が3つも連続する箇所(198ページ)もある。タコと人間とを扱った稀な本書の内容を殺ぐものではない。