896竹信三恵子著『家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの――』

書誌情報:岩波新書(1449),xiv+238頁,本体価格800円,2013年10月18日発行

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「家事労働を特定の人に担わせる仕組みによって,その人々は一日24時間のうちの多くを無償,または低賃金の仕事に費やし,その結果,経済力や意思決定力を奪われることになりかねない」(180ページ)。この言葉に本書の主張が込められている。シャドウ・ワークあるいはアンペイド・ワークとして家事労働の意味を問う試みをふまえて,家事労働を社会的労働に位置づけなおした好著である。
賃労働は現状のままで男女に家事を平等に割り当てるか,男女で家事を平等に分け合って女性に有償労働の時間を増やし男女全体として有償労働を増やすか(これはオランダ型で家事労働は個人が基本),家事労働を家庭外サービスに委託し家事労働比率を減らすか(これはスウェーデン型で家事労働は公的な家庭外サービスによる)のバリエーションを見ると,日本にはどのような選択がありえるのか。働く女性を増やすためには,保育(私的か公的か),職業訓練,男女の賃金差別解消が必要だが,これこそこれこそ仕組みを変えるという政策を実施すれば実現できる。
在日アメリカ商工会議所が提起する外国人家事労働者による家事労働軽減策は東南アジアで例をみるように家事労働を外国人に移し替えるにすぎず,ILO189号条約「家事労働者条約」の批准こそ急ぐ必要がある。
「家事労働ハラスメント」とした著者の問題提起は家事労働に集約された問題を可視化し,家事労働が女性だけでない社会的広がりをもつ問題であることを教えている。