897和田俊憲著『鉄道と刑法のはなし』

書誌情報:NHK出版新書(420),246頁,本体価格780円,2013年11月10日発行

鉄道と刑法のはなし (NHK出版新書)

鉄道と刑法のはなし (NHK出版新書)

  • -

有斐閣『書斎の窓』に連載(「鉄道と刑法①〜⑩」)にほぼ同量の授業用メモ(勤務先で「鉄道と刑法」という授業をもっているという)を加えている。連載時から鉄道をネタに刑法を論じている切り口に惹かれすべてに目を通したことがあった。なかでもガソリンカー事件(第五話),キセル乗車と薩摩守(第八話),駅弁・駅そば・食堂車(第十四話)は記憶に残っている。
鉄道には,車両鉄,撮り鉄,時刻表鉄,則鉄(鉄道会社の旅客営業規則などを対象にしたファン),路線蒐集マニア,廃線跡を歩くマニア,葬式鉄(廃止される路線の営業最終日に乗車する)といわれるコアのファンがいるそうな。中学時代に鉄道研究同好会・研究部に入っていたという著者はさながら法鉄学者(これは帯に謳っていた)といっていいだろう。鉄道を舞台とした刑事事件や鉄道に関する犯罪を定めた法律を俎上に載せ,刑法それ自体を考えようとする法鉄学者の試みはおもしろい。「無用な情報ほど知っているだけで楽しい」(60ページ)という著者の姿勢は本書のいたるところで生かされている。
鉄道と刑法が日本の近代化にかかわる重要な道具であり,刑法から鉄道を見ることで後者の公共性が明らかになるとすれば,北の大地・北海道における鉄道の「労働環境の劣悪さ」(216ページ)にとどまらず,多数の囚人労働者の犠牲によっても建設された歴史的事実を掘り下げてほしかった(第十八話)。
行為の犯罪を決定し刑罰を科すことを目的とした刑法が,個人的法益・社会的法益・国家的法益すべてに関係する鉄道を通して社会各層の人間の営みに直結していることを教えてもらった。