書誌情報:悠書館,iii+751頁,本体価格4,500円,2010年5月10日発行
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たとえばアフリカを読むと,アフリカにおける最初の鉄道建設はエジプトだったことがわかる。地中海から紅海に達する通路を求めて,アレキサンドリアからカイロを通りスエズまでのルートである。当時フランスがスエズ運河掘削を計画していた。イギリスは地中海からインド洋にいたる通路を確保するために案出したのだった。カイロまでは1856年に,スエズまでは1858年に開通した。植民地宗主国の政治的目的によって計画され建設された実例になる。アフリカの北の端は仙台の緯度にあたり南アフリカ南部はオーストラリアのはるか南に位置する。アフリカは仙台からオーストラリアの南端まで陸地が続くほど広大である。鉄道地図を一瞥してわかるように,海に面した港湾から内陸に伸びている。植民地宗主国の産業に必要な農産物・鉱物資源を内陸から積み出し地に運ぶため,つまり植民地経営のためにつくらたものがほとんどだ。
世界最初の鉄道誕生地イギリスから世界およそ50カ国(ドイツ・オーストリア,フランス・ベネルクス,イベリア,イタリア,スイス,ハンガリー,ポーランド,スカンジナビア3国とフィンランド,ロシア,中近東,アフリカ,アメリカ合衆国,カナダ,ラテンアメリカ,南アジア,東南アジア,東アジア,日本,オーストラリア,ニュージーランド)の鉄道史は百科全書的性格をもっている。技術仕様(ゲージ,使用電気の種類・電圧)だけでなく経営方法,政治・軍事・文化などへの言及は執筆者によって濃淡がある。アフリカの鉄道敷設と同様に,日本の朝鮮半島と中国大陸での軍事的緊張関係についても当然触れられており,鉄道技術史にとどまっていないところがいい。
評者の日本以外の鉄道乗車は,ベルリン-ドレスデン(1435mmゲージ,1時間50分),ドレスデン-ライプツィヒ(同,32分)およびシドニー-ニューカッスル(同,乗車電車を間違えて半日かかった)でしかない。本書のドイツ章にはライプツィヒ・ドレスデン鉄道敷設に尽力した国民経済学者(=「ドイツ鉄道の父」)フリードリッヒ・リストについても詳しい。
歴史を牽引した鉄道「知」は奥が深い。
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