575トーマス・ラインズ著(渡辺景子訳)『貧困の正体』

書誌情報:青土社,264+vi頁,本体価格2,400円,2009年10月23日発行

貧困の正体

貧困の正体

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グロバリゼーションを前提に論じるのか否かで,世界の10億の貧しい人々への処方箋が違ってくる。ポール・コリアは貧困国の政府に原因をもとめ,グローバリゼーションに対応した輸出中心の産業構造への転換と民主主義の制限(軍事介入の容認)を主張したのだった(関連エントリー参照)。対して本書は国際経済秩序の構造調整政策への批判と食糧安保論を提示する。「貿易を自由化して巨額の金融取引を増大させることではなく,10億の貧しい人々に,雨風をしのぐ屋根と,ひもじい思いで眠りにつかないですむだけの食糧を保障すること」(まえがき,9ページ)が著者の基本線だ。
「市場自体が問題の大きな部分を作り出してきた」(45ページ)のであって「腐敗,無能力,非能率に満ちたアフリカ大陸の暗愚な国内政治が原因」(79ページ)なのではない。外国との競争から(アメリカの農業政策のように)自国農業を守り,農業生産と食糧安保を貫くことが最重要だというのだ。一種の管理貿易であり,在庫,輸入・輸出割当,多国籍企業と農産物委託生産のコントロールなどアンチ・グロバリゼーションに貧困からの将来を見る。
「豊かな世界の甘やかされた消費者の基準」か,それとも「彼らに使えるためにその労働が使われている貧しい世界の基準」か(165ページ)。グローバリゼーションは人の思惑や政策を離れて存在しない。政策決定の結果としてグローバリゼーションがあるのだから,「下されたのと同じくらい簡単に覆すことができる」(204ページ)。貧困の正体みたり枯れ尾花といえなくもない。